ドクトル・バタフライも家にやって来て鷲塚慶一郎の健康状態を確かめてもらいながら、私は彼を迎えにやって来たススハムを手招きして居間ではなく寝室に彼女を連れていき、即席童子溺泉の素を誰に貰ったのかを訊ねる。
「あの胡散臭いガイドのオッサンに貰ったのよ。相楽カッケマッも使ってみる?普段は自分より背の高い相楽ニシパを抱っこ出来るわよ」
「とても魅力的なお誘いですけど、お断りします。私は今のまま強くて優しい左之助さんが大好きなんです。子供の頃の左之助さんには会ってみたいとは思いますが、愛情に姿形は関係ありません」
「おかしいわね。惚気を話すつもりだったのに相楽カッケマッの惚気を聴かされたわ。まあ、私も慶一郎ならヨボヨボでもデブでも愛しているか…」
「フフ、それなら一緒ですね♪︎」
そう言ってクスクスと笑っていると寝室の戸を開けて元の大人の姿に戻った鷲塚慶一郎が部屋に乗り込んできた。どうやらお湯を掛けたら元通りになる事を左之助さんが教えたようだ。
左之助さんの着流しを着ているということは子供用の着物は破れてしまったか。お風呂に入るときに脱いでいたのでしょうね。
「葉子、帰るぞ」
「ここでその名前を出すなッ?!」
「ようこ?」
「ススハムの和名だ。俺と結婚するときに戸籍を作るときに付けた名前だ。しかし、まあ、よくも俺を子供にしてくれたものだ」
何やら不穏な気配を感じ取った私はスヤスヤと眠っているひとえを抱っこして、しとりも私を真似るようにドンと親分を抱えて左之助さんの後ろに隠れる。
「痴話喧嘩は他所でやってくれ」
左之助さんがそう言いながら手を払うと鷲塚慶一郎はススハムを俵抱きのように担ぎ上げ、そのまま家を出ていったものの、アイヌ民族の集落の在る山ではなく旅館に向かっていくのが見えた。
「仕返しするつもりだな」
「豚さんですかね」
「いや、猫かも知れん」
「オジサン、ちょっと気になるかも」
「……この事件の始末書を書くのか。はあ、糸色に関わってから面倒事ばかりだな」
「なんだよ、退屈しねえだろ?」
私の事を挟んで話す左之助さんと斎藤一の会話を聴き、まるで私が面倒事や騒動を引き起こしているかのような言葉に少しだけムッとしてしまう。
むしろ私は危ないことを避けていますし、逃げたいのに危ないところに連れていくのは斎藤一なのでは?と思いながらも口には出さない。
あの怖い目で睨まれるのは怖いのです。
ただ、左之助さんは私が一緒に居ても退屈しないと言ってくれたのは嬉しいです。