ドクトル・バタフライ達と今後の未来に関する出来事を話し合った翌日。私は縁側に眠り籠に入ったひとえを降ろして、洗濯物を取り込んでいたとき、見覚えのある兜の家紋を胸元に刺繍した青年と目が合う。
「池波君、また来たんですね」
「今回は私だけだ。上がっても良いだろうか?」
「……えぇ、どうぞ」
ゆっくりと中庭に入ってきた彼を縁側に案内し、お洗濯物を取り込み、ひとえを居間の座布団の上に寝かせて、スヤスヤと眠る顔にクスリと笑いながら、急須のお茶を湯呑みに注ぎ、彼に差し出す。
池波君。かつてお父様のお仕事を見学していたときに数回ほど出会った相手であり、彼の演技は子供ながらに凄く綺麗だと思っていたけど。
まさかシンケンブルーになるなんて想像していませんでしたし。なにより池波家と交流を持っていた自分の浅はかさに少し戸惑う。
「ご用件は?侍になれと言うのは無理ですよ」
「いや、そちらは無理だと分かっている。今日は幼馴染みとして、六年後しになるが景の結婚を祝わせて貰いに来ただけなんだ」
そう言って私の左手を見る池波君。
何処かほの暗い感情を感じるものの、お洗濯物を畳んでいた手を止めて彼を見据える。……そういえば「大きくなったら結婚しよう」と言われましたね。
まあ、ふつうに断りましたけど。
姿お兄様の恐ろしい気配を感じ取ったのはあの時が初めてだったと記憶に残っているし、そういうものに興味も無かった子供時代の思い出です。
「君と夫婦になるのは
何だか何処かで聞き覚えのあるセリフですね。
「冗談でも聞きたくないわよ、それ」
「冗談か……景、私も君も大人だ。力の差も身体の大きさも目に見えて違うと分かっているのか?」
そう言って私の手を握る池波君に深い溜め息を吐きつつ、その手を優しく離して、しとりとひとえを抱っこしながら彼の目を見つめる。
「私は人妻です。不貞行為は愚物のごとき所業だと分かっているでしょう?そもそも私は死んでも相楽左之助という男性だけを愛します」
「……ハハ、その頑固なところは変わらないね。昔から君はずっと手の届く距離にいるのに絶対に掴まえることの出来ない星のようで……」
「口説き文句は不要です。あと私より素敵な女性は沢山いますよ。無理に私なんかに拘る必要は欠片もないでしょう?」
「花びらの 舞い散る夜空 月も切ない」
いきなり、何故俳句を?
そう思いながら悲しそうに笑った池波君は「私は君という月を想い、これからも歩いていこう。だから、せめて、君を想うことを許してくれ」と言ってきた。
「だめです。浮気は悪い文明なので、貴方は貴方を愛する人に尽くして下さい」
それこそが大事なことです。