池波君の告白をキッパリと断って数時間後。既に夕食を済ませた井上君達は其々の自室に戻り、しとりはひとえと一室に寝室で眠っており、私は珍しく零時を過ぎても帰ってこない彼を玄関に座って待っている。
そんな時だ、がちゃりとドアノブが動いた。
「おかえっ…!」
いつもより遅く帰ってきた左之助さんを玄関で出迎えると何故か傷だらけの彼に思わず、悲鳴を上げそうになる口を押さえて恐る恐る手を伸ばす。
「……また、何か私のことですか?」
「いや、今回はお前じゃねえよ。この前来たっていう侍野郎に喧嘩を売られたんだ。……まあ、兎に角、お前には関係無い話だったぞ」
「そう、ですか」
おそらく戦った相手は池波君だろう。正道の如く真っ直ぐな綺麗な太刀筋を身体に刻んだ左之助さんの身体に触れ、ゆっくりと抱き締める。
「ごめんなさい」
「お前のせいじゃねえって、それより腹減ったから景の作った晩飯食わせてくれよ。ありゃあ剣心や斎藤以来の剣客で流石に疲れたからよ」
「すぐに用意しますから手洗いと傷の手当てを先に始めてきて貰えますか?」
「嗚呼、ゆっくりで良いぞ」
私の頭を撫でた左之助さんは背広を脱ぎ、ネクタイを緩めて居間の方に向かってしまう。赤い染みは手揉み洗いで取れるでしょうか?
もしものときはひみつ道具を使うとして、あまり道具に頼りすぎると自堕落になってしまうし。私は今まで通りの生活を心掛けるようにしよう。
「……ケホッ、ケホッ…」
ツンと喉に痛みを感じて咳き込んだ瞬間、口の中にヌルリとしたものが混ざり、ハンカチーフで口許を拭うと赤く白い生地が滲んでいた。
なん、で?
ドクトル・バタフライと恵さんの二人に治して貰えた筈なのに、また再発したの?と戸惑いながら口許の血を拭き、ハンカチーフを袖の中に仕舞う。
いつか死ぬのは良いです。でも、また苦しくて辛い事を繰り返さないといけないなんて怖い。ひとえも生まれたばかりなのに残して死にたくない。
「景、どうかしたのか?」
「え?ああ、すみません」
いそいそと割烹着を身に付けて、袖を襷で縛る。米櫃の白米と玄米をお茶碗に装い、切り干し大根、鮪の唐揚げを核鉄を使って温める。
お味噌汁は普通にガスコンロを使って温めつつ、今のは間違いだと自分自身に言い聞かせる。ようやく危ないことが無くなったのに、不安を与えるのはダメです。
「左之助さん、今日はお酒も飲みますか?」
「なんだ、景も付き合ってくれるか」
「もうっ、私は苦手だって知っているでしょう」
そう言って私はお盆に乗せた夕食を居間に運ぶ。大丈夫、さっきのは私の勘違いだから何も悪いことはない。私はお婆ちゃんになるまで生きるんです。