「やあ、糸色君」
「ドクトル、左之助さんを何処に?」
「私は止めたのだが、朝方やって来るなり『ヒーローマシン』を使わせろと言うのでね。仕方なく使わせてあげているんだ。付属のテレビで見ようか」
そう言われて渋々と私は彼の隣に腰掛ける。しとりとひとえはまだ分かっていないので、彼の作った子守り型ロボットと一緒に遊んでいます。
何故、市松人形なのでしょうね。
「ふむ、東京に居るね」
「時代は明治九年、私と出会った日ですね」
「君もだが彼も想いが重いな」
似た者夫婦。おしどり夫婦です。
私はいつもならそう言っていたでしょうが、左之助さんは静かに見えない場所に立って過去の自分───原作軸に存在している相楽左之助の事を見つめている。
そこは、私の存在していない世界だ。どれだけ待っても傷ついた過去の自分を助けに、傷の手当てをしに来ない私に口許を押さえながら左之助さんは顔を背ける。
『ッ、ゔぇっ…マジか、本当に居ねえのかよ…』
苦しそうに呟く彼は寝静まった夜中、何も書かれていないごろつき長屋の部屋を見つめる。本来なら其処にあるはずの「糸」と書かれた障子は無く、埃の積もった空き部屋があるだけだ。
ふらつき、場所が変わる。
時代は明治十一年、原作開始の時代になる。斬馬刀を振るって強い相手と喧嘩に明け暮れる自分の姿を眺める左之助さんを痛ましく思ってしまう。
緋村剣心に敗れ、斬馬刀を失い、独りで過ごす日々と喧嘩を繰り返す日々に『景が、いないだけでこんなに違うのか』と呟く声がテレビ越しに聴こえる。
怖くて、恐ろしい。
「ドクトル、もう止めましょう」
「無理だ。止めるには向こう側にいる左之助君が帰還する意思を見せて、彼が満足するか強制的に追い出されなければ止めることは出来ない」
「そんなっ」
『剣心や嬢ちゃんとも、そんな風に接するのか?』
だんだんと言葉の圧が代わり始めている左之助さんは『ヒーローマシン』にいることを忘れているのか。目の光は薄れて、ほの暗い感情が見え始める。
あれは前に私が誘拐された時にもしていましたね。
「左之助君、自我喪失なんて事はやめてくれよ?」
「ドクトルっ、どうにかできないの!?」
「……あるにはあるよ。君だ」
その言葉に私は戸惑う。
いえ、そうです。私も『ヒーローマシン』に入って、彼の事を連れて帰ってくれば良いんです。それなら、確実に左之助さんを連れて帰ることが出来る。
「どうする?」
「……私が行きます。こういうときにジーッとしていてもドーにもなりませんからね」
そう言って私は『ヒーローマシン』に乗る。