相楽左之助の長屋の部屋で休ませて貰い、血の滲んだハンカチーフを着物の中に戻して、「ヒューッ、ヒューッ」と掠れた様な息を吸う音が聴こえる。
「名前、なんてんだ」
「あ、けほっ…糸影色です。糸の陰る色と書きます」
「いとかげしき、知らねえな」
そう言って私の事をまだ警戒する相楽左之助の疑いの眼差しに涙を流してしまうものの、血の滲んだハンカチーフを使ってまた涙を拭き取る。
いつもなら優しく抱き締めてくれる左之助さんは居なくて、目の前にいるのは相楽左之助だ。私の愛している、大好きで大好きで仕方ない左之助さんじゃない。
「……助けてくれてありがとうございます。もう大丈夫ですから、失礼しました」
ゆっくりと立ち上がって彼に頭を下げ、ごろつき長屋の外に出る。時間は大して過ぎていないらしく、ほうっと安堵の吐息を吐いて歩き出す。
「ドクトル、左之助さんは何処に……」
誰にも聴かれないように小さく呟きながら見慣れた町を歩いていたその時、ぼんやりと橋の上で川辺を眺める左之助さんを見つけることが出来た。
「左之助さん!」
「ん、ああ、景か……景!?なんでここにっ」
ドンと彼の胸に飛び込み、いつもと同じで安心できる匂いに安堵していたその時、左之助さんの私を抱き締める力が強まったように感じる。
恐る恐る顔を上げると私の背後を睨み付ける左之助さんがそこに居て、どうして怒っているの?と問いかけるよりも早く彼は呟いた。
「景、オレに会ったんだな」
「え?」
その言葉にまさかと思って後ろに振り返ってしまった。どろりとした目が私を見つめていた。妬み、嫉み、羨み、憎しみ、殺意、怒り、様々な感情の混ざった目が私達の事を見つめていた。
「……お前、オレだな」
「……嗚呼、お前だよ」
「その眼鏡の女は?」
「オレの大事な女房だ」
そう言って貰えた嬉しさに微笑んだ刹那、強烈な殺気を感じ取ってしまい、身体の力が抜けてしまう。そんな私を優しく抱き締めて、左之助さんは相楽左之助を睨み付けるばかりです。
「オレはお前だからな、分かるぜ。自分の過去も今も共有して分かり合える相手のいない。隊長の事もあった、政府も許せない、剣心のおかげで闇は晴れてもお前の抱える孤独は満たされねえ……」
「うるせぇっ…!!どうすりゃ、オレも!」
「無理だ。この世界にコイツはいない、コイツはオレだけのオレの世界だけにいる大事な女房だ。お前には絶対に触らせやしねえよ」
左之助さんの言葉を聴き終えたその時、私達は元の世界に戻ってきていた。あと少し、再会するのが遅れていたら私はどうなっていたのだろう……。