時間は飛んで、二年ほどです。
暫く、また東京に戻ります。
明治十九年(1886年)、春の暮れ────。
時は巡り、東京へ 序
しとりとひとえの二人に私の乗り物酔いは遺伝していないらしく、楽しそうに家族四人の東京帰宅の船旅を終えても笑っています。
ドクトル・バタフライと約束したイギリス行きの話は1890年以降であり、それまでの時間は姉妹の一つ目の我が家とも言える神谷道場の隣家に建つ商家です。
「ひーちゃん、行こう!」
「ねーしゃま、まって!」
カラコンコロンと雪駄を鳴らして小走りで家の中に入っていく二人の後ろ姿を眺めつつ、私は一年ぶりに会える神谷道場のみんなに話し掛ける言葉を考える。
左之助さんは長谷川君達の新居を塚山君に手配して貰っている様だけど。旭さん、あんな骨の髄まで執着している男の子二人と同棲して大丈夫なのかしら?
まあ、女の子は逞しいですし、大丈夫な筈です。
「おろ?」
「え?」
釣竿と魚籠を持った赤髪の青年───とっくに三十路を越えている筈なのに二十代前半に見える緋村剣心と、その足元で不貞腐れて歩く木刀を佩いた男の子と目が合ってしまった。
「……ようやく帰ってきたでござるか。糸色殿」
「はい、帰ってきました」
「剣路は覚えていないかも知れぬが、この人とは一年前に会っているでござるよ。しとりと、お腹の子は無事に生まれたでござるな」
チラリと我が家に視線を向け、楽しそうに笑う声に耳を傾ける緋村剣心。剣路君はまだ三歳だったから覚えていないかも知れないけど。
「母様、ひーちゃんが……けんちゃん?」
トタトタと私の傍に駆け寄ってきていたしとりの呟きに不貞腐れていた剣路君は顔を赤く染めて、しとりの事を思い出してくれたみたいです。
これは、いわゆる初恋の相手との再会だったりするのでしょうか?と思いながら顔を赤くして、しとりの事を見つめる剣路君は随分と大人しい。
「ん!久しぶり、けんちゃん!」
「ひ、ひさし、ぶり」
にぱっと笑顔の花を満開にして笑うしとりに、もにょもにょと言い淀んでいる剣路君。緋村剣心と一緒に子供達の微笑ましい姿に思わず、笑ってしまう。
「ねーしゃま、はやい!」
「んっ、ひーちゃん!」
「あっ」
子供の成長を見守るのは母親の役目ですけど。ここに左之助さんがいなくて良かったです。流石に子供を殴り飛ばすなんていう事に成りかねないので。
「糸色殿、ご息女は何か武術は?」
「教えていません。習いたいと言えば左之助さんが鍛えてくれるとは思いますけど、姿お兄様の事を考えると何だか大変な出来事に巻き込まれそうだったので、とても悩んでいるんですよね」
そう言いながら私は緋村剣心に頭を下げ、我が家の掃除を始めるために準備を進める。