また商家の前に新刊を用意していると一番目にやって来たのは般若だった。般若面をしているけれど、嬉しそうにしているのは分かります。
「おお、おお!」
「かーしゃま、だれ?」
「この人は般若さんです。ひとえがまだお母さんのお腹に居たときに会ったことがあるんですよ」
「?」
こてんと小首を傾げるひとえの事をお膝の上に乗せてあげ、よしよしと彼女の頭を優しく撫でてあげる。私に似て少しだけ癖毛になってしまい、なんだかひとえには申し訳無いです。
ひとえは気にしていないので大丈夫かな?
「そういえばあの話は聞きましたか」
「あの話?」
「観柳の設立した金銭を預ける雅桐銀行という一団が粛々と勢力を高めているのだ。もっとも危険な行為には手を染めず、むしろ清廉潔白の合法で勝負している」
「良いことですね」
前世にもあった銀行より設立は早いようにも思うものの、あの河童もいるので悪いことはしないでしょうし。河童は水神の遣い、金運・財運上昇、商売繁盛、厄除け等々のご利益もありますから。
きっと河童を大事に扱っていれば平和に暮らしていける。ただ、会社を大きくすれば大きくするほど河童にお供えするキュウリは凄い量になりそうだ。
「かーしゃま、ねーしゃまとこいく」
「フフ、転ばないように歩くのよ?」
「ん!」
トタトタと歩き出すひとえの後ろ姿を見送り、お財布を取り出して絵草紙を購入する般若に「今回も沢山買いますね」と訊ねる。
「やはり糸色殿の作品は人気なので」
「そう言って貰えるのは嬉しいですね」
「個人的に格闘術の絵草紙は心踊ります。やはり糸色家には秘蔵の武術書があるのでしょう?是非とも私にも見せていただきたい……いや、すまない。高ぶりすぎて愛読者にあるまじき行為をした」
般若はそう言うとお金を置いて帰ってしまいました。まあ、中々に良いことも聞けましたし、のんびりと絵を描いて生活しましょう。
それに、どうせ『らんま1/2』も繋がっているので問題なく描くことは出来ます。奈落の影響もありますが、やっぱり好きなものを見ることが出来るのは良いです。
「け、景ちゃんさん、匿ってぇ」
「旭さん、どうしたの?」
「二人に婚姻申し込まれて逃げてる途中なのよ。はぁー、美人に生まれるって罪ね。そういう訓練は受けたことあるけど、アイツらケダモノすぎるわ」
「居間の方か神谷道場の方に逃げて良いですよ」
「ありがとう!」
そういうこともあるわよねと納得し、空っぽになった湯呑みにお茶を注いで、のんびりとお客さんが訪れるのを待つ。こういうのが一番落ち着くのよね。