陸奥出海とその息子の天兵君と別れて、のんびりとした日常を過ごす私の目の前に、またしても般若が現れて先日も買っていった本を手に取っている。
「般若さん、京都住まいですよね?」
「そうですが」
「何度も来ていたらお仕事に支障を来しますし、操さんに怒られるかも知れませんよ。折角、赤ちゃんも生まれるのに立ち会えなくても良いんですか?」
「それは困りますね。糸色殿、操様に贈るので二冊ずつ貰えますか?」
「はいはい」
風呂敷に包んであげるといつものようにお金を置いて、般若は走っていき、商家の出入り口脇の小部屋のお座敷に座っておまんじゅうを食べる姉妹の笑顔を眺めて、私は癒しを貰えてほっこりとする。
しかし、左之助さんに喧嘩を売る人はまだいる東京の破落戸達には感心してしまう。名実共に日本最強の喧嘩屋と言えば左之助さんの名前は必ず挙がり、彼の成り上がりは彼らの目標でもあります。
それに私やしとり、ひとえに手出ししようと考える人達もいないのは好感を持てます。やはり左之助さんの硬派なイメージを真似ている人は多い。
「景さん、ちょっといい!?」
「薫さん、どうしたんですか?」
しとりとひとえの湯呑みにお茶を注いでいると珍しく胴着に着替えている薫さんが店先に立っていて、どうしたのかと驚きつつ、彼女に問いかける。
「剣路に稽古を付けようとしたら、その…」
「想像していたより強かったんですね」
「うん、流石は私と剣心の息子だわ」
「フフ、良いですねえ♪︎」
自分の子供の成長に喜んでいる薫さんの言葉に納得しながら手拭いを貸してあげ、そのまま興奮冷めやらぬ彼女の汗を拭ってあげる。
しとりも姿お兄様に似て色々な物に興味を惹かれ、ひょっとしたら将来は冒険家になるかもしれない。その時は母親として背中を押してあげ、いつでも帰ってこれるようにしないとですね。
「剣路の行く末は道場の跡取りになって貰いたいんだけど。あの子、ひょっとしたら剣道より剣術のほうが性に合っているかも知れないのよ」
「そうなると問題は緋村さんですね」
あの人は頑なに御剣流の伝承を拒んでいますし、そう簡単に教えるとも思えない。もしも、飛天御剣流を教えるとなったら姿お兄様か比古清十郎になる。
しかし、二人とも教えてくれませんね。
純正統伝承者の比古清十郎は緋村剣心へ、緋村剣心の信念は明神君へ、そして飛天御剣流の秘刃を継ぐ姿お兄様は自分の子供に受け継がせるでしょうし。
やっぱり、どうにもならないですね。