「此方に絶景先生が居ると聴いたのですが」
「私の名前は
「ああ、いや、申し訳ない」
少し語気を強めて伝えるとペコリと頭を下げて謝ってくれた男の人を許して、新刊の絵草紙をお求めなのか春画をお求めなのかを訊ねる。
しかし、私の予想とは違っていた。
「いえ、我が流派の広告に貴女の絵を描いて欲しいんです。貴女こそ新しい時代を彩る先駆け、是非とも講道館の仕合を描いて欲しい」
修羅の刻が迫り始めている。不破の一族は生まれたばかり、強い相手はそう簡単には見つからないけれど。ひょっとしたら剣路君と当たるかも知れない。
そう考えながら真摯に私を見つめる背広姿の彼に少し悩みつつ、西郷四郎の事は少なからず記憶に残っているため、そちらを理由に聴けば良いのかしら?
「講道館というと、あの?」
「はい。西郷四郎の流派です」
自信満々に答える彼に苦笑を浮かべつつ、あまり下手に関わるのも大変だからと「主人に相談して、大丈夫ならお伺いします」と伝えれば満面の笑みを向けてきた。
正直、左之助さんのほうが強いですね。
まあ、そう言ったら大変な事になりますし。柔道や柔術は戦場組討術を発展させ、無手に於ける戦術を高めた格闘技。この時代の柔は当て身と投げ技、極め技の融合性は高く総合格闘技に近しい。
「住所は此方に」
「えぇ、ご丁寧にありがとうございます」
住所を書き記した紙を受け取ると彼は嬉しそうに駆け出していき、まるで私がやって来るのが確定しているかのように大はしゃぎしています。
なんだか元気で良いですね。
「糸色の姉ちゃん、浮気か?」
「明神君、どう見ても接客でしたよね。あんまりそういうことを言っていると燕ちゃんに君の春画を描いて渡しても良いんですからね?」
「やめろ!?アイツ、姉ちゃんの愛読者なんだから描いたらとんでもないことになるだろうが!」
「フフ、冗談です♪︎」
「じょ、冗談に聴こえねえよ」
まあ、師範代の貴方に恋情を向ける門下生はいますし。需要はあるんですよ、需要は。燕ちゃんも新妻として頑張っているので描きませんけど。
────とは言え、だ。
講道館に向かうとなると余計な出来事に巻き込まれるのは確定してしまう訳ですし、左之助さんか明神君、緋村剣心の誰かには付き添ってほしいですね。
柔術なら幾つか知っていますが、そちらは描いていないのですが「陣内流柔術」や「岬越寺流柔術」なんていうのもあるものの、絶対に描きません。