講道館の一件は無事に終わり、のんびりと過ごす私はしとりのお願いでひみつ道具の一つを貸し出しているけど、悪いことは起きない筈です。
それに最近は喧嘩屋の噂を聴きます。
最初は左之助さんの事かと思っていたけど。
どうにも噂の内容に首を傾げてしまう。お客さんのひとりは「六尺を越える大男で、大槌を使う喧嘩屋」だったり、神谷道場の門下生は「鉈を構えた小柄な男」とも全く違う人のように話している。
「その喧嘩屋の正体を暴けと?」
「ああ、既に戦いから身を引いている緋村殿と相楽君には申し訳ないが手伝って貰えるだろうか?」
「オレは生涯現役だぞ」
「左之、流石に厳しいでござるよ」
いつものごとく警官の方に頼まれる二人の事を見送って、私はひとえと一緒に商家の前に腰掛け、見慣れたお客さん達の相手をこなす。
「盤若さん、またですか?」
「はにゃさん?」
「般若です、ひとえ殿」
「ひーは、ひとえどのないよ?」
「ムッ」
ひとえは不思議そうに小首を傾げ、般若の言葉に言い返す。すると、当然のごとく般若も反応に困ってしまい、お互いを見つめ合ってしまう。
まあ、そうでしょうね。ひとえ自身は殿や様なんていう敬う言葉は初めて聴きますし、不思議に思ってしまうのも仕方ない事です。
「はにゃさん、ないよ?」
「いや、しかし」
「気軽にちゃんを付けて呼んで下さい」
「ひ、ひーちゃん」
「ひーだよ!」
自分の名前を呼んでくれたことにひとえは嬉しそうに笑いながら片手を振って、楽しくて楽しくて仕方ないと言わんばかりに笑っている。
とても可愛いです。ソーキュートです。
うにうにと頬っぺたを触り、お膝の上に乗せてあげると「んやぁー!」と言いつつ、同じように私の頬っぺたを触り始めるひとえの頭を優しく撫でてあげる。
「仲良しは良いことですな」
「フフ、そうですね♪︎」
「んむぅ?」
よく分かっていないひとえも可愛いです。
そのまま無垢な貴女でも私は良いのですよ?と思いながらアクビをする彼女を横抱きに寝かせて、羽織を布団代わりに掛けてあげる。
膝枕もしてあげるのがポイントですね。
「それで、本当のご用件は?」
「はっ。実は糸色殿の父君に糸色直属の傘下にならないかと翁に連絡があり、我ら御庭番衆はあなた様のためにお仕えする所存です」
「……それはまた唐突ですけど。分かりました、これからもよろしくお願いしますね」
「御意。あ、あと蒼紫様のために新刊を」
「はいはい」
お父様は何を考えて、そんなご提案をしたのだろうか?と思いながら私は本を風呂敷に包み、いつものように差し出す。