「かーしゃま、かーしゃま」
「フフ、どうしたんですかあ?」
小さな瓶を抱えてやって来たひとえを優しく抱き上げ、お膝の上に乗せてあげる。最近は異様に私を狙っている話ばかりでイヤな気持ちにもなりますが、こうして最愛の愛娘と触れ合えば頑張れます。
「これ、なぁに?」
「それはお母さんのお友達が作ったお薬です。飴ではなくお薬ですから絶対に飲んじゃダメですよ?ちゃんと渡してくれて、ありがとう」
「はぁい」
私の言葉に頷いて瓶を渡してくれたひとえの頭を優しく撫でてあげながら、ドクトル・バタフライの作ったひみつ道具の『ジキルハイド』を見つめる。
人間の性格をまるっと正反対に変える危ないひみつ道具で、ススハムさんは私みたいにか弱い性格に、不破信二はそもそも効かない云々ではなく『ジギルハイド』を飲んだ瞬間に爆発し、黒煙を吐いていました。
あの人は絶対に人間じゃないですね。
私は自我の残ったまま悪辣な性格になったので二度と飲むつもりはありません。それに、あの性格は少しばかり、ほんとうに非常に破廉恥な性格になるんです。
「ただいまー!!」
「しとり、ただいまは伸ばすなよ」
「ん!」
トタトタと袴を履いて動きやすい格好をしたしとりは楽しそうに廊下を走り抜け、その後ろをトレードマークとも言える『悪一文字』の服で追いかける左之助さんの視線が私の手もとに集まる。
「また、あの積極的な景も悪くないぞ」
「おばかっ」
ニヤニヤと笑う左之助さんを叱り付ける。
「そうかぁ?素面の時より甘えてたじゃねえか」
「うぅ、子供の前で破廉恥ですよ…!」
フンと顔を逸らして不思議そうに小首を傾げるひとえの事を抱き締めて、手洗いとうがいして戻ってきたしとりは袴のまま左之助さんの背中によじ登る。
「父様、ちぢんだ?」
「しとりがデカくなったんだよ」
「しとり、でかい!んっ!!」
まあ、女の子は色々と早熟ですし。いつの間にか初恋を終わらせていることもあります。ちなみに私の初恋は左之助さんにも内緒です。
ご本人には言えませんからね。
「ひーはおっきぃ?」
「えぇ、ひとえも大きくなっていますよ」
「んへへぇ」
「やっぱり二人とも嫁に出すのはやめようぜ。こんなに可愛い子供を会って直ぐの奴らにやるなんざオレは絶対に嫌だぞ」
「よめえ?」
「ん!およめさん、しとりなる!」
その言葉に左之助さんはものすごくショックを受けた表情で座り込み、しとりはそんな左之助さんの背中をヨジヨジと登っていく。
「けんちゃん、およめさんにしてくれるんだー」
嬉しそうにしとりは笑った。