ここ二年ほど危険な出来事も無く平和な生活を過ごしている事は素敵な事だと言えますが、唯一不満げに妖気を発している蛮竜にしとりとひとえは警戒心を剥き出しにしながら「ウウゥゥッッ!」と唸っている。
ワンちゃんみたいで可愛いです。
しかし、常に戦いを好んでいた戦骨の相棒たる蛮竜にとって平和な生活は苦痛なのかも知れない。四百年以上の時代を駆け抜ける大鉾────。
彼、あるいは彼女は戦骨という最強の兇鬼こ血潮の沸く戦場を求め続ける羅刹に従っていた頃の方が良かったのかも知れない。
そうでなければ怒る理由が分からない。
「左之助さん、蛮竜どうにかしてほしいです」
「陸奥か剣心と殺し合うか」
「……死んじゃダメです」
そう言ってみるものの。左之助さんの知り合いは本気で戦わなければ大変な相手ばかりで、簡単に戦ってもらえる相手もいないです。
「まあ、なんとかなるさ」
「とーしゃま?」
「……いっそのこと我が家の当主の証ということにすれば蛮竜も満足して過ごせるんじゃないでしょうか?賛さんや武藤君のように強い子も生まれるみたいですし」
「おお、妙案だな!」
私の呟きに左之助さんは納得してくれた。
あれ?そういえば賛さんと武藤君は蛮竜は糸色家の当主の証として残っていると言っていたけど。まさか、この蛮竜の不満げな態度が決め手に?
ほんとうに、こんな崇高さの欠片もない微妙な展開で決めても良いのだろうかと悩みつつ、あとでお父様とお母様の二人にお手紙を送ろうと考える。
しかし、蛮竜も私の提案に満足そうだ。
「景の腕力で蛮竜持てねえのに当主なれるか?」
「……多分、しとりかひとえの子供が使えるようになるでしょうし。そのときに左之助さんが手解きをしてあげれば問題ないはずですよ?」
「………………」
「左之助さん?……そんなにショックなんですね」
ちょっとだけ申し訳なく思いつつ、静かに「三人目が男なら」なんて呟いている彼から距離を取る。もう私の身体が耐えられないので無理です。
こんなに可愛い娘が二人もいるのに三人目を求めるのは少し強欲すぎます。四人家族でいっぱい幸せになっていけばいいんです。
「景もしとりもひとえもオレのだ」
「私はそうですけど。まだ恋も何も経験していない子供に変なことを言うのはダメですよ。ねえ?」
「ん!しとり、こいさんすき!」
「ねーしゃま、ひーもすき?」
そして、姉妹は恋ではなく鯉の話をしている。
いつか訪れる未来なんですから、どっしりと構えておけば良いんです。