また、例の喫茶店にやって来ている。
楯敷ツカサは初老の男性と楽しく談笑している最中、チラリと私に向かって微笑みを浮かべたかと思えば二眼レフを構えて、カシャッとシャッターを切る音だけが喫茶店に軽く響き渡る。
普通は
「お嬢さん、飲み物はどうする」
「おやっさんの珈琲は絶品だぞ」
「……では、珈琲をひとつ」
おやっさん。
そう親しげに呼んでいる楯敷ツカサは私や未来の子供達に負担を押し付けている様には見えず、如何にも好青年という雰囲気だ。
着物の袖の中に仕舞っていた手帳を取り出して、万年筆を使って今後の展開と体調不良による一時的な絵草紙の休止の予定を纏める。
前世の記憶に残っている仕事は殆んどチェーン店の席にパソコンや資料を用意し、ひたすら入力と送信を繰り返すだけで長時間も滞在したりしていました。
あの時は店員さんにも悪いことをした気もする。いえ、悪いことをしているつもりはないのですが、必然的に悪いことをしていたというべきですね。
「ツカサ、運んでくれ」
「オレも客だろ!?」
「二階に住み着いてるヤツは客じゃねえよ」
「まあ、仕方ねえか」
楯敷ツカサは面倒臭そうに珈琲の淹れられたカップとソーサーを私の座っている席のテーブルに置き、そのまま真向かいの椅子に腰掛けるなり、仮面ライダーダークディケイドに変身するドライバーをテーブルに置いた。
これは、敵意なしの意思表示なのでしょうか?
「……『変身しなくてもお前みたいな女はオレが襲えば抵抗しても好きに出来るんだぞ』という悪役らしい意思表示ですか?」
「まあ、殴って押さえ付ける程度は出来るな」
「最低ですね」
「おいおい、お前の始めた物語だろう?それとも『世界を繋げる力』をオレにくれるのか?」
「始めたのはドクトルですし。この力を悪用させるつもりもありません。それから『世界』ではなく『物語』です。私の描いたものが認知されてしまえば絵本だろうと童話だろうと世界の一部になりますし」
そう言いながら手帳を畳んで袖の中に戻そうとした瞬間、私の右手を握り締める楯敷ツカサを怪訝そうに見据える。人妻に不用意に触れるのは最低です。
「ツカサ、左手の薬指を見とけ」
「……チッ、流石に駄目かあ……」
「何かしようとしたんですか?」
「ファンガイアがよく使う相手を支配する催眠術を仕掛けてみたんだが、頭の中は全部旦那と娘の事ばかりな上に無限に拡がる本棚も見えた」
それは、私の『特典』の『前世の記憶』ですね。