巨木を彷彿とさせる足が「葵屋」を蹴り砕き、地面を揺るがして巨大な山のごとき鉄兜と頬当てを身に付けた男、「破軍」の不二が私達を見下ろすように現れ、軽く巨大な野太刀を担ぐために振るった。
たった、それだけの動きで生じる風圧に私の身体は弾かれるように飛び、後ろに倒れるように転がり、地面に激突し掛けたところを誰かに支えられる。
「っと。ちょっと危ないじゃないの!糸色ちゃんも気を付けなさいよ?」
「ほ、本条さん、ありがとうございます」
「良いのよ、お友達でしょう」
いつ、お友達に?と本条鎌足……本条さんの言葉に疑問を持つものの、やはり何処でお友達に認定されたのか思い出せず、私は小首を傾げてしまう。
「か、家宝の絵襖があぁあぁぁーーーっ!!?」
「お、御頭の絵襖がアァァァーーーーッ!!?」
半壊した「葵屋」よりも巻町さんと般若の二人は私の描いた四乃森蒼紫の絵を失った事に絶望の絶叫を上げ、地面に拳を打ち付け、安全な場所に移していなかったことを心底悔やんでる。
「うひょほう、その眼鏡の小娘が糸色景か。蝙也の奴は小僧に負けしておるし、鎌足は負けた相手に仲良しこよしの体たらくとはのう」
のっそりと不二の手のひらに立っていた小柄な、ぬらひりょんを連想させる頭のフォルムが特徴的な老軍師「破軍」の才槌が現れ、じっくりと私達の事を見下ろしながら戦況を観察している。
「蒼紫様の絵襖の仇ィーーッ!!」
「ひょおっ!?ふ、不二!儂を守れ!」
怒りの貫殺飛苦無を投げつける巻町さんに驚き、自分を守るように指示を出す才槌に不二は無言で応え、その太い腕を盾のように突き出す。
当然、苦無に不二の巨体を貫ける威力は皆無であり、強烈な突風と太い腕に阻まれ、苦無は才槌に命中することなく防がれてしまった。
「ま、まったくヒヤヒヤさせよって!不二、一気に攻め落とせ!!」
「自分の仲間も殺すつもりか!?」
「弱いものは十本刀に要らん!」
柏崎さんは倒れ伏す刈羽蝙也を担ぎ上げ、薙ぎ払うように振るわれる野太刀を彼の持つ爆薬の衝撃を利用して回避し、私達の近くに転がりながら辿り着く。
「ふう、やれやれじゃな」
「爺や、怪我は!?」
「ただの掠り傷程度、気にするでない。それよりも流石にアレから糸色殿を守るのは難しいわいのう。操、糸色殿を連れて逃げる準備を」
「まっ、待って下さい!私だけが逃げるなんて絶対に嫌です!此処に残らないと、みんなに会えなく…!左之助さんにも合わせる顔が無くなります!!」
そう言って柏崎さんに反論し、私も此処に残る意思を伝えた瞬間、強烈な痛みが頭に走り、私は頭を押さえながら地面に蹲る。
「…ひぎゅっ、うっ…痛あッ…!?…」
「会いたい奴のために死地に留まるのは立派だが、お前のために命を張ってる奴らもいるんだ。素直に受け取っておけ。で、どいつが糸色だ」
た、叩かなくても良かったんじゃないの?
私は目じりに涙を溜めながら白外套を纏って現れた緋村剣心の師匠にして飛天御剣流の十三代目継承者たる比古清十郎の事を見上げる。
「この子よ、糸色ちゃんは」
「……チッ、まだガキじゃねえか。剣心の野郎、気立ての良い才媛とか抜かしやがった癖に。まあいい、子供は子供らしく大人の後ろで安心して座ってな」
「が、がき…」
老け顔とか言われたり、ガキと言われたり、一体私はどうしたらいいの?