「左之助さん、そろそろ寝ますか?」
「なんだよ、まだ起きてようぜ」
「もう一時ですよ?」
私がそう言うと壁に掛けている時計を見上げ、左之助さんはまた私に視線を戻して笑う。私が逃げないように腕の中に押さえ込んでいます。
別に逃げないですが、彼も酔い始めているのかな?等と思いながら机の上に乗っている空のお皿を一つに纏めて、いつでも台所に持っていけるようにする。
「もっと飲もうぜ、景」
「イヤです」
「拗ねてんのか?」
「何でそうなるんですか。お酒は恥ずかしい感じになるから苦手なんです、お酒の味や匂いも少し苦手ですけど。そちらは仕方ないので諦めましたが」
着流しの袖口から覗く太く逞しい腕に頭を預け、左之助さんと一緒に横向きにしなだれ転ぶ。こうしているところを誰かに見られたら恥ずかしいわね。
尤も真夜中にしとりもひとえも起きる事は子供ゆえに出来ないですし、そう思いながら背中越しに感じる体温と心音を聞いていたとき、ふと視線を感じる。
個魔の方が、廊下から見下ろしていた。
「…………ごめん」
「個魔の方、一升瓶一気飲みして下さい」
「死ねっていうの!?」
いつもクールな彼女らしからぬ叫びに少しだけ驚きつつ、にっこりと笑顔のまま机に乗っている一升瓶を指差すと個魔の方は頬を引き釣らせる。
「良いだろう。飲んでやる」
そう言うと一升瓶を握り締めた個魔の方はゴクゴクと勢い良くお酒を飲んでいたけれど。半分に到達する前に身体が影の中に沈み、一升瓶にはまだお酒が残っているのにダウンしてしまった。
まあ、七割は飲んだので許しましょう。
「酔い醒ましのお湯、飲みますか?」
「ゥん、ちょうダい…」
「んしょ……どうぞ」
ぐいっと私の襟首を掴んで引き戻そうとする左之助さんの頬っぺたをペチペチと叩き、使っていない湯呑みに白湯を注ぎ、個魔の方に差し出す。
彼女はゴクゴクと白湯を流し込み、静かに影の中に沈んでいってしまった。やっぱりお酒の一気飲みは危険ですね。個魔の方は妖怪なので大丈夫でしょうけど。
「I'll be back」
「……お馬鹿なんですか?」
グッと親指を突き立てたサムズアップのまま影に戻る個魔の方に苦笑を向けつつ、そろそろ寝室に戻ろうと左之助さんの身体を擦るも起きてくれない。
どうしましょうか、これ?
「左之助さん、起きて下さい」
擦るも起きてくれない。
こんな居間で寝たら風邪を引いて……左之助さんって風邪になるのかしら?今まで怪我したことはあるけど、病気に罹っているところを見たことないですね。