「葵屋」の防衛戦に勝利した神谷さん達は復興作業を手伝いつつ、私も出来る限りの荷物を運んでいるけど。明神君よりも軽いものを運んでいる筈なのに、フラフラと足取りが乱れ、工具箱を運ぶ事も儘ならない。
「……ひいっ!…ひいっ……」
「こりゃあ生きる云々以前の問題だな」
私の醜態を眺めながら徳利を口許に運び、お酒を飲む比古清十郎の言葉にショックを受けるものの、それは事実だから反論を言えず、それでも少しでも手伝えるところは手伝っていく。
きっと左之助さん達も頑張っている。
だから私も出来ることは頑張る。
「糸色殿、炊き出しの用意を頼みます」
「…あぅ…」
ただ、その努力が私の貧弱で虚弱すぎる身体では実り難い事も理解しているため、柏崎さんの言葉にしょんぼりとしながらもお増さんやお近さんに混じって食事の用意を始める。
厨房は半壊した「葵屋」の下敷きになっているから、基本的に出来るのは焚き火を起こした上に鍋を敷き、なんとか無事だった豚肉……牡丹肉の方が伝わりやすいかな? を焼くことくらい。
そう私は心の中で思ったりしながら豚肉を切り、鍋の中で焼いて、その間に土埃や木屑を水で洗い落とした野菜の皮を剥き、焼けてきたお肉に少し大きめにカットした玉ねぎや人参を混ぜ、最後にジャガイモを鍋に投下する。
醤油、みりん、料理酒、出汁等々の調味料を加えていき、蓋を閉じて十五分ほど待つ。ネギも有ったら嬉しかったけど、無い物ねだりは出来ない。
「そろそろ良いかな?」
鍋の蓋を開けて、お玉を使って小皿に汁をすくい、いつものように近くにいると左之助さんに味見させようとした瞬間、今は左之助さんがいないことを思い出した。
「…………明神君、味見お願いできますか?」
「もう出来たのか!」
私の言葉に燦々と輝く笑顔を向けてきた彼に驚きつつ、小皿を渡すと「薫より美味い!」と言ってくれた。でも、その神谷さんが後ろにいるわよ?
お塩だけのお結びを御盆に乗せて、汚れを綺麗に拭き取ったお椀に全員分の豚汁を注いでいく。
「完成しました…よっ……えぇ?…」
私が言い終わるよりも先に作業を進めていた柏崎さんを始めとした御庭番衆の方々は一斉に忍びの本領を発揮したような素早さで集まり、慌てて巻町さんと神谷さんも集まってくる。
「ホウ。薩摩汁か」
「比古さんもどうぞ」
「嗚呼、酒の摘まみに貰おう」
豚汁でお酒は飲めるのだろうか?と疑問を持つけど。お酒好きなら大体の物はお摘まみになるかと納得し、御盆に乗せたお結びを彼の腰掛ける木材の上に置き、私も神谷さん達のところへと戻る。
早く左之助さんに会いたいなあ……。