お寿司屋さんで味の文明開化を味わい、のんびりと夜風を浴びて家族皆で一緒に帰っていたその時、橋の上に立つ人影に違和感を感じる。
異質な存在感。異様な佇まい。
リイィン…!と鳴く音が聴こえると同時に赤い鋸状の刀身が月明かりに照らされて見えた。裏正。雪代縁に渡されたものとは違う、本物の裏正です。
「景、しとりとひとえを連れて下がってろ」
「ただならぬ気配ってヤツか。オレにも犇々と伝わって来やがるぜ」
左之助さんの言葉に頷き、私は二人を連れて橋の傍を離れ、家屋の影に隠れて個魔の方の張る結界の中で愛娘達の事を抱き締める。
どうして、今更腑破十臓が此処に?
そう思いながら蛮竜を持たず素手の左之助さんにもしものことがあったらと不安を抱き、しとりとひとえの事を力強く抱き締めてしまう。大丈夫、大丈夫です。
左之助さんは負けないんですから、どんなときも絶対に勝ってきたんです。それに蛮竜は呼べば来てくれますから大丈夫なんです。
ゆっくりと左之助さんが構える。
両手を軽く胸元まで上げ、足の間合いは動きやすいように肩幅に、素手のまま腑破十臓を相手取るのは難しい。せめて蛮竜を呼び出す時間があれば良いんですけど。
「どうりゃあっ!!」
「なんだお前は?」
そう思っていた次の瞬間、月明かりで白く照らされたソウタロスが人間態の腑破十臓に殴り掛かり、イマジンの拳が裏正の赤い鋸状の峰を殴り付け、鈍く重い音を奏でる。
「いってぇ!?」
「当たり前だ。ソイツの刀は前も後ろも斬れる」
「先に言ってくれよ!」
いえ、それを教える前にソウタロスが飛び掛かっていったんですよ?と私は思いつつ、此方に視線を向けてきた腑破十臓にビクリと身体を震わせる。
あの時と同じ目だ。
「あいつ、きらい」
「しとり!?」
ムスッとした顔で電光丸を抜こうとする彼女の事を止める。ひとえは静かに腑破十臓を見つめて、不思議そうに小首を可愛らしく傾ける。
「かーしゃま、いたいいたい?」
そう言って裏正を見据えるひとえ。おそらく彼女の目には腑破十臓の堕ちる前の妻が見えているのでしょうが、私には見えていない。
感受性の高い子供だから見えた?と考えながら素手のまま腑破十臓と戦う左之助さんに向かって、しとりが何かを放り投げた。
懐剣?……違う、あれは虎翼だ。
「父様、使っていいよ!」
「おう!」
落ちてきた虎翼を掴んだ左之助さんは素早く柄を引き伸ばして十文字槍を構える。霊気を込められたものだからって、まさか通じるのですか?