「やっぱり、北海道に居た女か」
大根を吟味していたとき、ポンと頭を大きな手のひらが乗る感覚に驚きながら、慌てて後ろに振り返ると陸奥出海が佇んでいた。
そそくさと左之助さんの後ろに逃げるように移動し、音も気配も無く近付いてきた陸奥出海の事に身を竦ませて、彼の事を静かに見据える。
いきなり女性の身体に触るのはダメです。
「人の女に気安く触るなよ、爺」
「親父、下手に触るな」
「なんだ、天兵は向こうの味方か?」
「勝手に触るのは良くないって聞いただけだ」
そう言うと私より背の高くなった天兵君を見る。
おそらく、まだ「陸奥」の名前を継いでいないのでしょうが、既に左之助さんや緋村剣心、斎藤一に匹敵し得る。あるいは、もう越えている雰囲気を感じます。
「えと、ご用件は?」
「景、止めとけ。信二と同じヤツだぞ」
「不破信二か、アイツとなら死ぬかも知れない本気の本気の戦いが出来たかも知れねえが、もうすぐ俺は陸奥の名をコイツに譲ろうと思っているんだ」
「……死ぬ気ですか?」
「死ぬかよ、オレは陸奥出海だぞ」
「御託は聴き飽きてんだよ。用件を言え」
左之助さんがそう言うと陸奥出海はチラリと天兵君に視線を移した。それは、彼が私に話しかけるように言ったということなのでしょうか。
私と左之助さんは思わず、顔を見合わせる。
「あー、坊主が景に用があるのか?」
「うん。用があるのは俺だ」
「話を聴くだけなら良いですけど…」
そう言うと天兵君は頷き、陸奥出海を見上げると「お前の言いたいように言えば良いんだよ」と告げる。一体、私達に何をお願いするつもりなの?
「しとりを俺の嫁にくれ」
「帰れ」
ほぼ条件反射の勢いで断った左之助さんにビックリしながらも左之助さんの言い分は正しい。しとり本人の居ないところで勝手に決めて良い話ではないです。
天兵君は1872年生まれの十五歳。対して、しとりは1880年生まれは七歳です。数え年の一歳を差し引いても六歳の娘を元服前の男の子に差し出すのはダメです。
「なんでダメなんだ?」
「しとりには幼馴染みで好きな子がいるんです」
「アイツもダメだ」
またしても左之助さんの条件反射のごとき否定を聴きつつ、私は天兵君に伝える。確かに、しとりは同年代と比べると大人びて可愛いですが、お嫁さんにするには色々と早すぎるんですよね。
「母様、どうかしたの?」
「かーしゃまいた!」
ひとえと甘味処でお団子を食べていた筈のしとりとひとえの登場に私は苦笑を浮かべて、左之助さんを見ると彼も深い溜め息を吐いていた。