「おろ?」
「あ、こんにちは」
八百屋さんでお野菜を吟味していたとき、買い物袋を持った緋村剣心と遭遇し、ペコリと軽く会釈を交わしてキュウリの重さを計り、珍しく売られていた南瓜を買うべきかを悩む私の隣に緋村剣心が並ぶ。
「店主殿、大根と白菜を貰えるでござるか」
「あいよ!剣さん、最近ひとりで買いに来てるが女房はどうしたんだ?」
「ああ、薫殿は息子の稽古でござるよ。何分、好いた女の子に負け越している状態でな、どうしてもしとり殿に一勝したいのであろう」
「しとりは意外と負けず嫌いですからねえ…」
「なんだ?先生んとこの娘さんか!」
私と緋村剣心の言葉に八百屋さんの店主は「ずいぶんとまた世間は狭いなあ……そういや幼馴染みなんだっけか」と呟き、感慨深く頷いていますね。
お野菜を買って買い物袋に入れて貰い、のんびりと珍しく緋村剣心と二人きりの状況に少しだけ戸惑う。緋村剣心と会うときはいつも左之助さんか娘達がいるか、薫さん達が一緒にいるときですから。
「糸色殿は件の泥棒騒動に関わっている様子はござらんが何か別件でござるか?」
「緋村さん、そろそろ私を怪しむのやめて欲しいんですけど。確かに色々な事件に巻き込まれていますが、私は黒幕じゃないですよ?」
「おろぉ……拙者も分かってはいるのだが、どうにも糸色殿を見ていると怪しく思えるのでござる。まるで、そう仕向けられるがごとく」
「(仕向ける。精神を操作する術はそこそこありますけど。私だけに仕向ける理由は想像できませんね。……いえ、無理に考える必要はないんです)」
あり得ない現象は何度か見ていますし、未来から子供が来ることも分かっている。そういう類いの力をずっと緋村剣心に与えている人間がいるというわけです。
ずいぶんと悪趣味な人です。
「しかし、下着など盗んで何を?」
「私に聴かれても分かりませんよ」
「確かに、そうでござるな」
私の言葉に納得してくれた緋村剣心は倭杖を引き抜くと一歩前に踏み出し、大きな風呂敷を担いだ八宝斎の背中に背負われていた風呂敷を弾く。
「お主、性懲りもなくまた」
「えと、先に帰りますね」
そそくさと人斬り抜刀斎モードに変わり掛けている緋村剣心の顔にビクリと身体を震わせ、私は八宝斎の悲痛めいた悲鳴を聴きつつ、我が家に向かう。
その途中で久保田さんに怒られている長谷川君と井上君を見掛けたけれど。嬉しそうに怒っている彼女の顔にクスクスと笑みを浮かべてしまった。
フフ、やっぱり仲良しですね。