「改めて、私の名は九能。富豪の嫡男にして絶世の美男子、人格良し、何でも自由に出来る完璧な男だと自認している。どうだろうか?彼と離縁して私の妻になってもらえると信じているのだが」
「あ、私に話していたんですね。お断りします」
ペコリと頭を下げて、そそくさと魚屋さんで秋刀魚を吟味していたときに薔薇の花束を抱えてやって来た九能家のご先祖様と思わしき青年のプロポーズを丁寧に断り、家族全員の分を丁寧に見定める。
「フ、私に靡かぬ君も素敵だ」
「先生、この坊主なんなんだ?」
「えと、さあ?」
私は何でも知っているわけではありませんから、それに人妻に求愛するヤツは須く敵です。NTRなんていう文化は滅びるべき、慈悲は与えない。
「佐助!佐助はおらぬか!」
「はっ。ここに」
「うむ、景殿に捧げるプレゼントを見繕うぞ!」
そう言うと九能君は忍者を連れて歩き始める。アニメのオリジナルだった人もいるわけですか……いえ、あれはご先祖様に当たるのでしょうか?
しかし、私の何処に惚れる要素があるのだろう。左之助さんしか好きにならないし、すでに二人の子供もいる人妻なんですけど。
「……なんだったんでしょう?」
「先生って変なのに好かれるよな。あの般若面の兄ちゃんだったり、派手な着物の兄ちゃんだったり、たまに半裸の変態も連れてるし」
「待って下さい。最後の人、だれです?」
魚屋さんの店主の言葉に困惑する。
だって、私に見えていない相手がいると彼は言っているようなものです。一体、私の後ろに何がいるのだろう。半裸の変態とはだれなの?
私の切実な疑問に答えてくれる人はいない。
秋刀魚を家族全員分買って、個魔の方やドン達の分は骨を抜いて解してあげようと考えながら、今日も元気に下着泥棒に勤しんでいる八宝斎を見掛ける。
あの子は本当に諦めませんね。
「ん!母様、まいご!」
「お母さんは迷子じゃないですよぉ?」
「ひーちゃんもまいごだった!」
「ひーはねーしゃまといっしょだったもん」
「フフ、じゃあ二人とも手を繋いでいたから迷子じゃないのね。それならお母さんは安心です」
買い物袋を持っていない手を握るひとえ、そのひとえを挟むように反対側に移動したしとりが彼女の小さな手を握り、腰に佩いている小太刀サイズの電光丸を揺らす。
「母者、付けているヤツがいるわよ」
「半裸の変態さんですか?」
「え?いや、違うけど」
違うのなら大丈夫ですね。
それにしても、しとりとひとえは強くなるのに母親の私は未だに怖がりで戦うことも出来ず、本当に申し訳ない気持ちになるばかりです。