パタパタと扇子で自分を仰ぐ九能君、その彼の顔にベチベチと小さな手を叩きつけるひとえの行動を止めるべきなのでしょうが、どうしたらいいのでしょうか?
私の焦りなんて気付いていないひとえは九能君の頭によじ登って、フンスと嬉しそうに肩車して貰えた事を喜んでいるのが分かるけど。
もう少しだけ、ほんのちょっとだけ淑やかに過ごしてもらえるとお母さんは安心できます。いえ、ひとえの事を悪く言っているわけではないんです。
「フハハハハ!私の美顔を踏みつけるとは愛い娘御だ!!私の妻に迎えてやろうか!」
「んー、やっ!」
「そうか!では、心変わりしたら来い!!」
……なんとなく分かってきたけど。
九能君は女好きではなく、女性が大好きなんですね。そういう考えを持っているのではなく、女性という存在を老若問わずに愛でて慈しみ、尊ぶタイプです。
まだ少しだけ男尊女卑の存在する明治時代には珍しい性格なのでしょうが、私は左之助さんや他の人達に優しくしてもらえているので安全ではあります。
「で、なんでまたウチに来た?」
「うむ、流石に婚姻している女性を口説くなど早急すぎたと反省していた。しかし、私の目的は変わらない。是非とも私の妻になってほしい!」
「お断りします」
「そうだぞ。お断りしますだ」
「ん!ひーちゃん、あぶない!」
「ねーしゃまもしてたもん!」
「それはお父さんにですね」
ひとえを抱っこしてあげる。
最近、また大きく重くなってきていますし、そろそろ抱っこしたまま運んだりするのは難しい時期ですね。子供の成長は早くて嬉しくて寂しい。
座り直した私の袖をしとりが掴む。
「ん!ひーちゃんずるい!」
「あ、まって、あああああぁ……」
ぐいっとしとりに引かれて、二人と一緒に倒れてしまう。良かった、私があのまま立っていたら、しとりとひとえが大怪我をしていたかもしれなかったから本当に良かったです。
「さ、左之助さん、起こして下さいっ。動けないです、あの?あれ、左之助さん?」
「…………そのままでいいだろう」
「ん!しとりのほうがつよい!」
「かーしゃま、よわいの?」
「お母さん、弱いのかなあ……」
純粋な眼差しを受けると自分の弱さを思い返して少しだけ悲しい気持ちになります。でも、しとりもひとえも強くて優しい女の子になってほしいです。
「しとりがまもる!」
「えと、もうちょっとだけ私も守る側でいたいから、しとりはお姉ちゃんとしてひとえのことを優しく見守って上げてもらえますか?」
「ん!」
フフ、元気の良い返事ですね。