いきなり現れて、いきなり帰ってしまった糸色妙さんの事を考えながら左之助さんは金剛石の刀身に変化した蛮竜に困惑し、軽く何度か振っています。
いつか、あの力も使えるのでしょうか。
流石に妖怪の力を奪って、自由自在に使えるようになったら本当に左之助さんは世界最強になるけれど。彼は対等な喧嘩を好んでいますから素手の人には蛮竜を使うことはないでしょうね。
「景、今のヤツ使えねえか?」
「まず、持ち上げられないです」
ふるふると頭を横に軽く振って蛮竜を持つことを拒みつつ、私は普通の鉄の蛮竜に戻っている刀身に、そうっと触れてみる。うん、えぇ、まあ、ものすごい妖気と恐ろしい執着心を感じますね。
戦骨の魂は牙鬼軍団のところですし、左之助さんや未来の子供達に執着しているのは戦骨と再会するために利用しているのでしょうか?
それとも別の作戦があるのかしら?
「さっきの宝石みてえな蛮竜、もっとお前に見せてやりたかったんだけどな」
そう言って肩を落とす左之助さんに「使えるようになるまで、ちゃんと待ちますから」と伝えて、みんなの事を描いたキャンバスを見つめる。
それにしても妖怪の力を使えたら左之助さんの強さを求める人も増えてしまいそうです。
しかし、しとりとひとえは彼女が来ていることに気付いていなかった。あるいは、彼女の事を認識することが出来なかったようにも思えます。
「で、さっきのは誰だ?」
「武藤君や賛さんと同じですよ」
また緊迫した雰囲気を醸し出す左之助さんにクスクスと笑いながら、そう告げると「あの女もオレの孫か曾孫だったわけか。なんで蛮竜の話を聞きに来ねえんだ?」と、また不思議そうに首を傾げる。
確かに、そこは気になりますね。
いえ、白面の者と戦っていると話していたから彼女は白面の者に集中したいのでしょうね。私や左之助さんと話す時間も惜しむ程に切羽詰まっていた。
「景、景?おーい、考え込んでるな」
「…………いふぁいれふ」
むにむにと私の頬っぺたを引っ張る左之助さんの手をペチペチと叩き、なんとか離してもらえたものの、少しだけヒリヒリとする頬を優しく擦る。
まとめようとしていた思考は記憶に残っていますけど。あんな風に頬っぺたを引っ張るなんて酷い。少し別の事に集中していただけなのに理不尽です。
「また考え事か」
「ん、眼鏡は取らないで下さい」
なにも見えなくなるのは、困ります。
渋々と彼の手を握ってキャンバスに絵を描くこともやめて、しっかりとボヤけて何も見えない視界ながらも左之助さんの事を見つめる。