母と語らう 序
実家に帰ってきてからてんやわんやと騒々しく静かな時間を作れなかったものの、左之助さんにしとりとひとえの事を頼み、ようやくしっかりとお母様と語り合える時間が出来た。
「こうして私の指導室に来るのは久しぶりね」
「フフ、そうですね。……それから帰ってきたのにお母様とお話しする時間を作れず、申し訳ありませんでした。少し、お母様と話すのが怖かったのもあり……」
「恐怖無くば人は生きていけない。貴女の臆病さは善き人に巡り会える道標となっていたのなら、母として安心することが出来るわ」
そう穏やかに笑うお母様の笑顔に、ほうっと安堵の吐息を吐いて年甲斐もなく私の事を抱き締めて優しく頭を撫でてくれるお母様に少し気恥ずかしさを感じる。
でも、すごく安心する。
「景、また軽くなったわね」
「いえ、これでも増えたんですよ?」
「そう、かしら?最後に抱いたときよりも軽くなっているように感じるわ。しとりちゃんやひとえちゃんのほうがまだ重く感じるもの」
「二人は成長期ですから」
私の言葉に「そうね、姿も活発だったけど。あの子達はもっと活発で色々な事に目を向けて、沢山の事を自分で知ろうとしている」と肯定し、二人のやりたいことにも理解を示してくれる。
とても有り難いことです。
「あまり大声では聴けないことだけど。景、左之助さんとは円満な夫婦生活を送っている?あの巨体で良いように扱われていたりしない?」
「良いように?」
「ああ、その反応で分かったから大丈夫よ」
「え?えと、はい」
よく分からない言葉に困惑するも直ぐにお母様の言っていた言葉の意味を理解し、かあっと顔が熱くなる感覚に襲われてしまった。
うぅ、羞恥心だけで頭が沸騰する。
いえ、それよりもお母様がこんなお話をするなんてあり得ないです。おそらく別の何かが関与しているかも知れないけど。悪意はないし、場を和ませるために無理をしているのでしょう。
「……お母様は優しいです」
「景も優しいわよ」
貴女を見習い、手本にしていますから優しく在れるのだと思います。ただ、やっぱり優しすぎるから左之助さんを心配させていつも怪我や悪いことに巻き込んでしまっているのです。
私は、悪事に加担しているわけではないけれど。ずっと私を怪しんでいる人もいますし、少し疲れているのも事実です。
いえ、それが一番の原因なのかも知れない。
「ねえ、お母様、その」
「ダメよ。そのもしもの時を考える顔は」
もしものとき、私の代わりに左之助さんと一緒に子供を育ててほしいと伝えたかったけれど。それはあっさりとお母様に拒絶されてしまった。