某剣客浪漫世界で私は物書きをする。   作:SUN'S

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巾着切りの士族 序

剣客警官隊の騒動から七日ほど経過し、彼らの話題はめっきり聞こえなくなった代わりに、左之助さんの腕っ節の強さを見込んだ極道や賭場番に依頼を受け、喧嘩の仲裁や力自慢の敵対組織を相手に喧嘩しているそうだ。

 

喧嘩屋の斬左として強さを求めるあまり自棄を起こさない事を切実に祈りつつ、魚屋の店先に並んでいる取れ立ての魚を見つめる。

 

お腹の膨らみ具合で卵の有無は分かるけど。東京湾で釣れた魚のお腹に何が入っているのかが分からないという恐怖もある。

 

「あら、あれ?財布が…」

 

折角、仕事を一段落させたから奮発しようと袖の中に仕舞っていた筈の巾着袋を探すも巾着袋の存在その物が無くなっている事に今さら私は気付く。

 

「お嬢ちゃん、スラれたのか?」

 

「……また、今度にしますね…」

 

店主の憐れみの視線に耐えきれず、そそくさと魚屋の店先を外れるように歩き、ごろつき長屋の自室に戻るために人混みの中を人にぶつからないように歩く。

 

「退け、ブス!」

 

「ぶ、ぶす…」

 

いきなりぶつかってきた子供に謝るよりも先に手酷い罵声を受け、なんだか悲しい気持ちになりながら、トボトボと悲しさを背負って長屋を目指す。

 

「あはは、災難だったわね。糸色さん」

 

「神谷さん、それと…貴方はあの時のお侍さん」

 

突然の会話の入りに驚きつつ、後ろに振り返ると神谷さんと緋村剣心が並んで佇み、私に苦笑いを浮かべている。おそらく出稽古の帰りであろう神谷さんは愛用する防具や竹刀を担ぎ。

 

その傍らに立つ重い荷物を持った緋村剣心を見る。

 

「改めて、拙者は神谷活心流道場に居候している流浪人の緋村剣心でござる」

 

「ああ、ご丁寧に、私は物書きの糸色です」

 

お互いに挨拶を交わす。

 

しかし、私を見つめる剣心の眼差しは剣呑な雰囲気はないけれど。心の中を見透かす様な妖しさに、私は耐えきれず、すうっと顔を横に逸らしてしまった。

 

「……あまり見つめないで欲しいのですが」

 

「おろ、すまないでござる。どうにも糸色殿の拙者を見る目に違和感を感じてしまい、か弱い女性に不躾な目を向けてしまい、申し訳ないでござる」

 

「いいえ。私もごめんなさい、まだ刀を差している人がいるんだと思うと珍しくて……」 *剣心は基本的に佩かずに差している

 

「成る程、先程の視線はそういうことね」

 

私の弁明とも言い訳とも言える言葉に神谷さんは納得して、緋村剣心も「確かに今どき刀を腰に差しているのは珍しいでござるか」と、一応は納得してくれたと私もそう思うことにした。

 

「ところで。神谷さん、災難というのは?」

 

「さっきのスリよ。貴女もスられたんでしょ?」

 

「えっ。ああ、私はあの子にじゃないですよ」

 

さっきはショックで気付かなかったけど。

 

あの口の悪い子が明神弥彦だったのね。

 

「いやはや、東京にもスリも多いでござるな」

 

「これも時代の流れ、ですね」

 

昔の栄華のために盗みを働く士族や華族は未だに多い。しかし、逆に言えば私の描く水墨画や風景画、春画を買うために散財する人も多く、私達の生活は誰かの犠牲の上に成り立っているのは変えようのない事実である。

 

 

 

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