新装開店した「葵屋」の大広間に描いた御庭番衆の集合絵を眺める四乃森蒼紫と緋村剣心の姿から、そうっと視線を逸らして私は知らぬ存ぜぬという態度を取る。
「以前の絵襖より穏やかな表情でござるな」
「嗚呼、そうだな」
「しかし、何故糸色殿はお主の小太刀二刀流を知っていたのか。少々気になるのも事実…」
「本人に問えば済む話だろう」
チラリと私を見据える四乃森蒼紫の視線を防ぐようにお盆を顔の前に持ち上げる。やめて、あの絵を描いた後に気づいたことだから追求しないで下さい。
私は無関係……というわけじゃないですけど。
あのときは巻町さんに喜んで貰おうと頑張りすぎただけなんです。そう私は心の中で叫びつつ、左之助さんの近くに移動して正座し、ゆっくりと座り直す。
「左之助、何食べてんだそれ?」
「あの爺さんの出してくれたスッポン鍋って料理だが、弥彦もこれ食ってみるか?」
「良いのか!」
ああ、さっきから美味しそうに何かを食べているなあと思ってましたけど、スッポン鍋だったんですね。……スッポン?恐る恐る柏崎さんに視線を向けると親指を突き立てていた。
あ、あの助兵衛おじいちゃんめぇ………。
「景も食べるか?」
「い、いえ、私は遠慮しておきます」
「結構、美味いんだがな」
モグモグとスッポンを食べる左之助さんにドキドキしてしまう。うぅ、こういう知識を持ってると自分がエッチな女の子に思えて恥ずかしくなる。
「ホッホッホッ」
「翁、程々にですよ?」
「勿論、分かっとるよ」
絶対にウソだ。
「この鍋なんかヤバいのか?」
「し、知りません!」
左之助さんの傍を離れるように、そそくさと今度は私は神谷さんと巻町さんの近くに移動する。二人とも普通に牛鍋を食べているから、ほっと安心できる。
全く世が世ならセクハラですよ?と私は心の中で文句を言いつつ、神谷さんと巻町さんにお勧めされるがままにお鍋を食べ始める。
───けれど。私は余り食べないんです。
「……ねえ、お化粧って何使ってるの?」
「顔料の乗りが良すぎるわよね、糸色さんて」
「一応、私の肌にあった薬草や漢方薬を使って作っているので安全な美容品はありますよ」
「「なにそれずるい!」」
私の説明に巻町さんと神谷さんの二人は鬼気迫る表情で詰め寄ってくるなり、どうやって作るのかを聞いてくる。「そ、そんなに欲しいならあげますよ?」と思わず、私はペースト状に練り込んだ物を詰めた丸箱を袖の中から取り出して、二人に見せる。
「りょ、量産って出来る?」
「か、可能ですけど……」
「やった!」
嬉しそうに洗顔を貰えると知った二人は笑っているけど。お増さんとお近さんの「私も欲しい」という視線に負け、全員分を作ることになった。