巡り合うのは凶気 序
行きと同じく私達は蒸気船を使って大阪湾を出立し、巻町さん達の見送りは盛大すぎて逆に恥ずかしかったものの。誰も欠けることなく生きている事実に私は、ほっと安堵の息と船酔いの気持ち悪さに口許を押さえる。
左之助さんにはまだ完全に傷の癒えきっていない緋村剣心の手助けをするように伝えているため、私は甲板の隅で行きの時と同じように吐き気と悪戦苦闘どころか一方的な敗北を迎えようとしている。
「…うぅ…やっぱり慣れない……」
フラフラと覚束ない足取りで甲板に設置された長椅子に腰掛け、ゆっくりと誰もいないことを確認して長椅子に寝転び、浮き沈みを繰り返す蒸気船の動きに合わせて、何度も呼吸を繰り返す。
余り効果はないけど。
何もせずに吐き気に耐えるのは辛い。
「
「えっ、あ、すみまッ……」
ゆらりと瞼越しに感じていた日差しが無くなり、どこか冷たさを感じる笑い声と言葉に慌てて上半身を起こし、ズレていた眼鏡を掛け直す。
長椅子を独占した事を謝ろうと顔を上げた瞬間、私の心臓は痛いほどに跳ね上がり、目の前に佇んでいる男の人の冷たさではなく凶気を孕んだ瞳に身体が強張り、呼吸も儘ならない程に身体が震える。
「……嗚呼、ボクの髪が気になりますか。これは少し、そう、昔々にボクと姉さんを襲った最悪の絶望でこうなってしまったんです」
「あっ、す、すみません。……どうぞ」
「
彼の声を聞いて我に返ることの出来た私は長椅子の右端に移動して、彼の座るスペースを作ってあげる。優しく微笑んでいるが、その眼差しは恐ろしくて背筋が凍り付いたまま動けなくなる。
ゆっくりと私の隣に腰かけて刀袋の鐺を甲板に押し当て、腕の中に刀袋を抱え込んで、ニッコリと張り付いた笑顔を向けてくる白髪と中華服を身に付けた雪代縁に私の不安は募る。
「貴女の目もボクと同じだ。なにかに絶望して、ずっと大切だったものを追い掛けている」
…………確かに、雪代縁の言う通りだ。
私は生きることに恐怖し、生きることに絶望しているのかも知れないけれど。それでも左之助さんと生きてみたい、歩んで行きたいと思えるようになったんだ。
「……貴方の言う通りなのかも知れません。私は生きることに絶望しています。───ですが、それでも大切な人となら生きていけると私は信じていますから」
「大切な人と生きる。嗚呼、そうだ、ボクもそうしたかったなァ……」
何処か遠くを見つめる雪代縁。
おそらく自分の姉の幻影を見ているんだろうと察した私は口許を押さえながら一礼し、フラフラと船内の部屋に戻るために歩き出す。
私には彼を救うことも導くことも出来ない。