「景、動かないでくれよ?」
ジリジリと私に近付いて来る左之助さんに首を傾げる。動くも何も糠漬けを混ぜているから、まだ少しの間は動けないですよ。
「ん!父様、悪いことしてる!」
「わるいこお!」
居間で遊んでいた筈のしとりとひとえもやって来て、左之助さんの背中に張り付き、そう彼の両肩に顎を乗せて話している。
二人とも、とても可愛い姿です。
手帳に絵を描きたいけど。
今は両手が糠まみれだから描けないのが口惜しい。まあ、私は忘れることはありませんし、糠を混ぜ終わったら直ぐに描けば良いこと。
「そういえば左之助さんは何を?」
「景の背中に金ぴかな蝶が止まってるんだよ」
ドクトル・バタフライの蝶が何故私の背中に?と不思議に思いながらも左之助さんに背を向け、金色の蝶を取って貰えました。
「……コイツ、粉か?」
「ドクトルの武装錬金ですよ」
「人の女房に手出しするな」
ぐしゃりと左之助さんが蝶を握り潰した瞬間、しとりとひとえはショックを受けたように物凄く落ち込み、左之助さんの事をペチペチと叩き始める。
あまりお父さんを叩かないであげてね?
「ん!ん!ん!」
「ちょおちょいじめちゃめっ!」
キュウリと大根を取り出して軽く水で糠まみれの野菜を洗い、一口サイズに切り分けて、三人の口の中に大根の糠漬けを入れる。
「美味しいですか?」
「おいしい!」
「ひー、これしゅき!」
そう言って笑う姉妹の言葉に微笑みつつ、左之助さんはまな板の上に残っている切り分けた分も食べようとしているので、彼の手をペチペチと叩く。
「……つまみに合うだろ。これ」
「だからって食べ過ぎはダメです。塩分の取りすぎは危ないんですからね?」
「その分動けば問題ねえよ」
私の忠告も聞かずにポリポリとお漬け物のキュウリを食べる左之助さんに苦笑を浮かべる。美味しいと言ってくれるのは嬉しいけど。
栄養のバランスを考えましょうね。
「しとりも食べたい!」
「とーしゃまだけずるい!」
「フッ、欲しかったら母ちゃんに頼みな。これは父ちゃんが食べる分だからよ」
彼のその言葉に従って私の事を見上げるしとりとひとえの眼差しに「仕方ないですねえ、此方に座っててね?」と冷えたお米をザルに乗せ、滑りを取ったものをお椀に入れ、お味噌汁のために作っていた昆布と鰹節の出汁に砂糖と醤油、みりんで味を整えたものをお米に滴し、その上にキュウリと大根のお漬け物を乗せる。
「熱いから気を付けてね」
「お茶漬けは狡いぞ!?」
「んへへぇ…」
「あげないもんね!」
「ぐっ。け、景」
「私たちもお昼ですし、食べましょう?」