「外道衆。志葉のヤツが話してたアレか」
「……はい、私を探しているみたいで」
交易場の端。比較的に隙間の少ない場所で、そう私は左之助さんにさっきの出来事を話しながら、今後も同じように狙われる可能性を伝える。
また、迷惑を掛けています。
このまま離縁されても文句は言えません。不安に思いながら左之助さんを見上げると怖い笑顔を浮かべて、ゴキリと拳を握り込んでいた。
「ドイツもコイツもいい加減にしろよ。オレの女だって分からねえヤツは叩き潰すぞッ…!」
こめかみに浮かび上がった青筋は太く血管が千切れるんじゃないかと不安になっていた刹那、巨大な鉄球が左之助さんと私に向かって転がってきた。
さっきのアヤカシとは違う。
外道衆のアヤカシの一体「マリゴモリ」です。
マリゴモリは、アルマジロのように堅牢な身体を持つアヤカシであり、さざえ鬼の伝承の元となったとも言われる存在。海の近くだから出現を想定しておくべきだったと迫り来る鉄球に腰が抜け、へたり込んでしまう。
「くっだらねぇ…」
苛立ち気に呟き、私の前に立った左之助さんはミシリと鈍い音を立てて握り固めた拳を大振りに振り抜き、ガゴォンッ…!と大きな砲撃めいた音が地響きのごとく反響した。
「ば、馬鹿な、俺の身体がッ!?」
「どんだけテメェの身体が亀みてぇに分厚くて硬かろうが関係無ねぇ。覚えとけ、アヤカシ」
─────極めるとはこういう事だ。
そう告げると同時にマリゴモリの額から背中に掛けて繋がっていた鎧は粉々に砕け、海に転がり落ちた彼は巨大な水飛沫を上げて爆発した。
「景、コイツで仕舞いか?」
「さ、左之助さんっ、てが、怪我してます!?」
軽く血糊を払うように手を振るった左之助さんに腰が抜けたまますがり付き、血まみれの右拳をハンカチーフで止血するために覆いながら涙を流す。
ごめんなさい、また私のせいで怪我をさせて。
そう何度も謝りながら止血していたとき、私の真後ろで水飛沫が上がったかと思えば海の水面が鏡面のように輝き、二の目になったマリゴモリをシンケンオーが引きずり込んでしまった。
「あのデカブツ相手なら蛮竜がいるな」
「さ、左之助さん?」
まさか生身でアヤカシと戦うつもりですか?と不安になりながら、傷付いた手を優しく痛まないように握り、私のせいだと自責する。
「ごめんなさい。私のせいで」
「あー、確かに痛てぇなあ」
「うぅ…」
「今日は寝ずに看病してほしいねえ?」
「ひぇっ!?」
血だらけの親指で唇をなぞられ、ビクリと身体を強張らせながら左之助さんの事を見上げる。悪戯が成功した子供のように笑う笑顔が、胸に熱を与える。