薄皮太夫と二重奏を始めて一週間ほど経過し、私達の生活に哀愁と哀傷と悲喜と悲愴と怨嗟の弦の音は止まず、静かに私達の記憶に彼女の音楽は残る。
しかし、その音色に混ざろうとする人も出始めています。私の旧姓を勝手に使い、薄皮太夫の三味線の奏でる音色を我が物顔で吹聴する輩です。
そういうのはよくない。糸色家に手紙を送って吹聴している人を探して貰っているけど。あまり長くその人が話していると、薄皮太夫も気づきます。
「景の名前を出したヤツがいるらしいな」
「左之助さん、ステイ」
「すていってヤツか」
「そうじゃありません。落ち着いて下さい」
今にも飛び出していきそうな左之助さんの手を握るも待ってくれず、どうしようかと悩んだ末、彼の頭をお胸押さえつける。小さくて貧相ですが、落ち着けるのならこうするしかない。
静かになった左之助さんを見ると顔を埋めるように押し付け、何かを考え込んでいる。やっぱり大きいほうが好きなのでしょうか。
でも、やっぱり動かない。
「左之助さん?」
「心臓、ちゃんと動いてるな」
その言葉にとしよしと彼の頭を撫でていた手が止まり、そちらを気にしていたんだと納得と同時にまだ生きている事を伝える。
ずっと心配してくれていたんですね。
フフ、嬉しいです。
でも、あまり無茶や危ないことはしないでくださいね?私は左之助さんが怪我をしてもいいなんて思っていませんから。
「なあ、景」
「なんですか?」
「辛いなら長野に帰るか?」
その言葉は冗談や中途半端な提案ではなく、本気の私の身体の事を案じている言葉だと直ぐに分かったけれど。私は答えることは出来なかった。
帰りたいと言えば帰る事は出来ます。だけど、みんなと離れるのは寂しい。どこまでも身勝手な女で、本当に嫌になる。私はいつまでも誰かに寄生している、依存していないと生きていけない。
よくもまあ、こんなので……。
「景、落ち着け。急に変な話して悪かった」
「え、あ、あ、はい、?」
いつの間にか抱き締めるのは左之助さんに変わっていて、時計の針を見ると一時間も進んでしまっている。また、集中しすぎてしまったんですね。
けど、とても落ち着きます。
「……大丈夫です」
「大丈夫なヤツの顔色じゃねえよ。ほら、眼鏡外して寝転んでろ」
「んッ……いきなり取らないで下さい」
眼鏡を取られる事にビクリと身体を震わせ、ぼんやりとボヤけて靄みたいに見える左之助さんに苦言を言いつつ、彼の傍に寝転ぶ。
少し、はしたないでしょうか?