今頃、左之助さんは妖怪と喧嘩しているのだろうかと考えながらスヤスヤと眠っているひとえのお腹を優しくポンポンと撫でる隣で、しとりは動かない。
寝息は立てているけど。
ピクリとも動かず、静かに眠っている。いつもなら布団を蹴っ飛ばしているのですが、今日は何事もなく普通に眠ってしまいましたね。
とても良いことです。
「母者、嫌な気配がする」
「え?ど、どうしたら?」
眠っている二人の事を考えて、個魔の方の言う場所にモヂカラで結界を張りつつ、玄関に向かっていき、蝋燭を立ててショドウフォンで何重にも結界を張る。
「張りすぎじゃないか?」
「絶対に必要ですっ」
そう私は個魔の方に伝えながら玄関の戸を叩く音にビクリと身体を強張らせる。
「景、オレだ。開けてくれ」
左之助さんの声が聴こえる。
でも、この声は左之助さんじゃないと分かっています。ドンドンと戸を叩く音は強まるにつれて、戸の向こう側に妖気が溢れるのが私にも見えてしまう。
「景、オレだ。開けてくれ」
「母者、答えるなよ。入って来るぞ」
その言葉にコクコクと頷いて、左之助さんじゃない何かの言葉に身体を震わせながら戸を叩く音が聴こえる度にモヂカラで結界を作り、息切れを起こして胸が苦しくなってくる。
絶対に開けちゃダメな扉です。
不安と恐怖と恐れで身体が震える。
愛した人の声を拒絶しなくてはいけないストレス。恐ろしくて怖い現状で一番縋りたい人の声を真似て、家の中に入り込もうとしている。
それが、とても恐ろしい。
「景、景、景、景、景、景、景、景、景、景」
「(頭がおかしくなりそうっ……)」
「落ち着いて。答えなければ入って来れない」
私の身体を支えてくれる個魔の方の言葉に頷いて、左之助さんが帰ってくるのを待っていたとき、戸を叩く音が一層激しく変わり、ドンドンドンドンドンドン!と何度も激しく戸を軋ませる。
「こいつ、空腹で形振り構ってないわね。人を喰うタイプの妖怪に起こりやすい現象だけど、一定のルールを守らないと人に手出し出来ない」
一定のルールを壊す妖怪もいるということですよね?と思ったものの、下手に声を出せば戸の向こう側に立つ妖怪が勢いを増すかもしれない。
そう考えると更に怖くなる。
それだけは本当にイヤです。
トタトタと走る音が聴こえてきた。影茶碗?と足元を走る影茶碗を受け止め、戸の向こう側に行こうとする彼を抱き締める。
ダメです、行っちゃ壊れてしまうから。
あなたも家族です。そう思いをつたえるように抱き締めているとワラワラとドンと親分、ボスが私の周りに集まってきて牙を顕にした。