一時間が経過した頃、戸を叩く音が止んだかと思えば何かを殴る音と悲痛な呻き声が聴こえてきた。ビクビクと個魔の方にしがみついて、玄関の戸を見つめていると徐に戸は横にスライドする。
「……寝てて良いって言ったろ」
「さ、左之助さん、本物ですよね?」
ペタペタと彼の顔を背伸びして触りながら確かめる。ちゃんと生きているし、妖怪の気配も感じないから本当の本物の左之助さんです。
ほうっと安堵の息を吐く私の肩を掴み、ゆっくりと抱き締めてきた左之助さんに驚きつつ、私も抱き締め返すと「今日も生きてくれて、ありがとう」と言って貰える。
「いつも愛してくれて、ありがとうございます」
「私も居るのを忘れてないか?」
左之助さんには見えていませんから、セーフということにしておきましょう。そうじゃなかったら、私は恥ずかしくて死んでしまいます。
いえ、実際に死ぬわけではないですけど。
居間の方に向かいながら、どんな妖怪だったのかを聞いてみたりしていると、いつの間にか抱き締めたまま畳の上に座っていました。
「んッ…あの?…」
「お、おお、わるいな」
背中を撫でる手が、下に向かう違和感に気付き、左之助さんに問いかけるとグルグルと廻った目が私を見つめていた。
「あ、妖気に当てられたな」
「へ?」
「ほら、よくある昂るヤツ」
「(知らない!それは、知らない!?)」
それは破廉恥な妖怪にあるヤツだと思います。まさかラッコの妖怪だったの?と思いつつ、左之助さんの手が私の臀部に向かい始めたところで、個魔の方が助けてくれた。
「危ないからやめようね?」
「はあっ…はあ…助かったっ…」
裾や襟元を整えてグルグルと廻った目の左之助さんを見つめる。なんだか前にも左之助さんが取り憑かれることがあったけれど。
もしかして、しとりの惹き付けやすい体質は、左之助さん
「景、先に寝てろ。オレは身体ァ動かしとく」
「喧嘩はダメですよ?」
「朝まで蛮竜振り回すだけだ」
それは、どうなんでしょうか?
グルグルと廻った目が私を見る度、身体が強張るのは左之助さんの目が怖いからじゃない。別の目に見えてしまうから怖いんです。
「母者、見張りは私がするよ」
「……いえ、私も見ています」
「そう。じゃあ、私も一緒に見てるわ」
そう言うと個魔の方は私の隣に移動して庭に出た左之助さんが片手で蛮竜を振るう姿を静かに眺めながら、しとりの撃盤を手の中で揺らす。