「でぇやはははっ!!」
聞き慣れた笑い声に空を見上げるとひとえよりも小柄な男の子、八宝斎が風呂敷を背負って楽しそうに高笑いをしながら飛び跳ねていた。
どうやって戻って来たんだろう?と不思議に思いながら家屋の屋根を走り回る八宝斎。あんなに軽やかに動けるのは羨ましいように思えるけど。
拳法の修行に行っていたんですよね。それなのに、どうして日本に帰ってきて早々に下着泥棒なんてしているんでしょうか。
「あの助平小僧、性懲りもなくッ」
「左之助さん、落ち着いて…ね?」
「オレは落ち着いてるがな。見てみろよ、あの助平小僧に下着盗まれた街の女共が鬼の形相で此方に走ってきてやがるぞ」
「……すごい人数ですね」
二十人以上の主婦や女学生の怒り心頭の表情に驚きつつ、左之助さんに手を借りて行きつけの甘味処に避難し、八宝斎の行く末を見送る。
必ず捕まるでしょうし。
怪我をしないかだけが心配です。
「しとり、ひとえ、真似しちゃダメですからね?」
「ん!」
「あい!」
私の言葉に素直に頷いてくれるしとりとひとえの頭を優しく撫でてあげる。
「良いですか?人の物を盗む奴は、もっと大事な物を無くすんです。八宝斎君もそれに気付いてくれれば良いんだけど…」
「オレは絶対に無くさねえぞ」
「?何か無くすんですか?」
いきなり、よく分からない宣言をする左之助さんに問い返すと店長が「今のは家族は絶対に無くしたくないってことだよ」と教えてくれた。
フフ、一番大事に想ってくれるんですね。
「あんの爺ッ」
「もう、二人が悪い言葉を覚えますよ?」
「ん!悪い言葉はめっ!」
「だめだよ?」
しとりとひとえにも言われて少しだけ不満そうな左之助さんの頭を撫でて慰めてあげる。大丈夫です。ちゃんと私達を心配してくれているのは分かっていますから、安心して下さいね。
「相楽の姉ちゃん、ここにおったか!」
「こんにちは、八宝斎君」
なんだか以前よりフレンドリーに話し掛けてきた彼に驚きながらも素直に挨拶を返した瞬間、左之助さんの身体が街道に吹き飛ばされた。
だけど、身体を捻って左之助さんは上手く地面に着地すると八宝斎の事を睨み付け、私に離れるように目配せをしてきます。
「ッ、テメェ…!!」
「ワシを一方的に殴った仕返しをしてやる!」
そう言うと彼はキセルを振るって左之助さんを攻撃する。でも、圧倒的な体格のリーチ差を忘れていたのか、普通に八宝斎は左之助さんに踏み潰された。
最初のキセルを使った投げは良かったです。