「疾風……いや、違うな」
「景、なにやってんだアレ?」
「技の名前を決めているんです。今までの技は猛筆拳という基礎でしたが、奥義に相応しい技名を楽京斎君は頑張って考えているんです」
「技か。憂さ晴らしなんてどうだ」
「それは左之助さんが乱打を打つときにいつも思っていることですよね?」
「なんで知ってんだ?」
「妻ですので」
実際は、そういう技名だったからですけど。
左之助さんには内緒です。悪いことではないと思うものの、本気で喧嘩する彼を見るのは、やっぱりまだ怖い。十年一緒に居ても怖く感じるときとある。
でも、これは私の精神の問題です。怖がりだから、愛しているのに怖がってしまう。情けなくて、悔しくて、自分が恥ずかしく思えてしまう。
「疾風猛筆拳!」
「景に当たったらどうするつもりだ!」
「音速猛筆拳!」
「待てコラァ!」と楽京斎の事を追いかけていく左之助さん。まだまだ雷神猛筆拳にはたどり着けていないようですが、いずれ到達する領域です。
音速の先、超神速の遥か先に到達してようやく雷神猛筆拳は完成する。けど、その前に八宝斎の「八宝大華輪」を完成させてしまうかも知れない。
二人の技はどちらも怖いですからね。
私は受けたらきっと死んでしまう。それだけ二人の技は危険ですし、近くで見ているときでさえも不安と恐怖で身体が竦んでしまっていた。
きっと、それも二人は気付いている。
まだ若く発展途上の彼らに悲しい思いをさせずに済めば良いんだけど。やっぱり格闘技は怖くて、楽京斎と八宝斎の事がほんの少しだけ恐ろしく思える。
「ん!ごはん、おいしい」
「ねーしゃま、おしょーゆほしい」
「卵焼きはだいこんおろし!」
「むうっ」
「どっちも美味しいですから、ね?」
そう言いながら大根おろしを卵焼きに乗せて美味しそうに食べるしとりと、お醤油をかけて卵焼きを食べるひとえは珍しく対抗しています。
仲良しですけど、食の好みはそれぞれです。
トマトを潰して煮込んでケチャップを作るのもありですね。いえ、どちらかと言えばトマトソースのほうを作った方が二人とも喜ぶかも?
ゆっくりと口許を汚すひとえの頬っぺたをハンカチーフで拭いてあげ、のそのそと二人の足元を歩くドンの背中に乗った影茶碗にクスリと笑う。
この子達もすっかり仲良しですね。
お母さんは嬉しいです。
「母様、もっと食べて!」
「かーしゃまたべる!」
「うっ……お母さんは、その、少食だから」
「「めっ!」」
「……はい」
いつもより量が少ないだけで、怒られてしまった。