某剣客浪漫世界で私は物書きをする。   作:SUN'S

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雷神の名 急

楽京斎と八宝斎の二人はまた忽然と居なくなるのかと思えば置き手紙を居間に残して、今度は清国の秘境を目指すという事が書かれていました。

 

しかし、秘境と言われると呪いを思い浮かべてしまいます。二人とも普通のまま帰ってくると良いんですけど。しとりは電光丸の手入れを入念にしています。

 

「しとり、剣術書を返して貰えますか?」

 

「ん!……ん?あれ、あれ!?」

 

私の言葉に手入れを止めて胴着袋を開くしとりでしたが、ある筈の冊子が見つからないのか。焦ったように面具や胴具を居間の畳に置き、袋の中を確かめるものの、見付からなかったのか。

 

今にも泣きそうな顔で私を見つめて来ます。

 

「フフ、大丈夫ですよ。こんなことでしとりを怒ったりしませんよ。多分、神谷道場に忘れてきてしまったのね。一緒に取りに行きましょうか?」

 

「……ん、ごめんね」

 

しょんぼりとする彼女の頭を優しく撫でてあげ、ゆっくりと玄関に歩いていき、草履を履いて神谷道場に向かう。ご近所ですけど、三軒となりは遠いです。

 

もう少しだけ近ければ良いんですけど。

 

しとりと手を繋いで歩く途中、息切れを起こし、ふらふらとしてしまう私を支えてくれる娘に申し訳なく思いつつ、ようやくの思いで神谷道場にたどり着く。

 

「景さん!?」

 

「こ、こんっ、こんにちは…」

 

息切れする私を支えてくれた薫さんに挨拶を言いつつ、道場に案内して貰い、掃除を進める門下生の中に見慣れた冊子を読む子、剣路君を見つける。

 

「剣路君、その本は何処で?」

 

「え?あ、これしとりちゃんの…」

 

「けんちゃん…」

 

ぎゅうっと私の着物の袖を握るしとりと剣路君に視線を合わせるために座り、お互いが行き違いをしないように、ゆっくりと話し合うことを勧める。

 

「しとりちゃん、勝手に見てごめん」

 

「ん、許す。でも何処見たのか教えて」

 

「…ここと、これ」

 

そう言って剣路君の開いたページを覗き込もうとする門下生達を明神君が「一応、糸色家とか神谷活心流の奥義もあるから覗くな」と牽制してくれたおかげで、勝手に見ようとする人はいなかったですけど。

 

しかし、良かったです。

 

まだ読んでいたのが普通のページでしたから、もう少し読み進めていたら剣術なのか妖術なのかも怪しい技の数々がありますからね。

 

「剣路は、しとりちゃんに勝ちたかったのね」

 

「ちが、わないけど、ちがう。しとりちゃん、守るくらい強くなりたいだけ!」

 

「あら、あらあらあら♪︎聞いた、景さん」

 

「微笑ましいですねぇ」

 

顔を真っ赤にする剣路君と、嬉しそうに笑うしとりを見ながら私と薫さんは笑顔になる。

 

 

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