左之助さん達の特訓は私には難しく思える。
相楽左之助と聞けば大抵の人は「日本一の喧嘩屋」もしくは「日本最大の交易商」と答えるでしょうが、今私の目の前に居る左之助さんは子供のように無邪気に強い人と戦う事を純粋に喜んでいる人です。
愛する人の可愛い一面を独占できるのは嬉しいですが、あまり無理をしてしまうと本当に大怪我を負い、危ない目に遭うかも知れません。
そうなったらと考えるだけで不安です。
Mr.カラテと対峙する左之助さんを見るのは通算三十四回目。全敗して尚も不屈の精神で立ち上がり、何度も挑み、三十五回目でついに勝利しました。
「……帰ったぜ」
「ねえ、左之助さん。もうやめましょう?こんなこと続けていたら死んじゃいます」
戦って勝つ。
在り方は男の人の憧れなのは分かりますけど。
流石に無理をし過ぎです。しとりとひとえのことも考えて下さい。まだ小さいのに、お父さんが大怪我を負うところを何度も見てしまっているんですよ?
「悪い。そこまで考えてなかった……いや、景達なら分かってくれると思ってただけだな。コイツは、ドクトル達に返す」
「本当ですか!?」
良かった、本当に良かったです。
左之助さんが死んでしまったら、と考えるだけで本当に不安だったんです。
「左之助さん、約束ですよ?」
「おう。約束だ……約束で思い出したんだが、この前の何でもするって約束どうなったんだ?」
「え?そんな約束……(いえ、あれは不破さんに左之助さんを助けて貰うために提示したものですから、左之助さん本人は聞こえていない筈です)」
「あのカラクリの中は外の声も聴こえるみたいでよ。信二のヤツに頭下げてまで、何しようとしていたのかオレも聞きてえなあ?」
「ひ、ひぃんっ!」
傷だらけの左之助さんに情けない悲鳴を上げ、居間の外に腰が抜けながらも逃げようと這うも呆気なく捕まってしまい、うなじに吐息が掛かる。
「だ、ダメです!左之助さん!左之助さん!」
「あんま騒ぐと人が来るぞ」
「来てるわよ、左之助」
その声に居間の外。廊下を見上げると呆れたように溜め息を吐く薫さんと恵さんが立っていて、私に覆い被さっている左之助さんを押し退けてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「チッ」
「アンタ、今日は検診だって伝えたわよね?」
「あ?あー、そういや聞いてたな」
忘れないで下さいっ、私の事ですよ?と苦言を言えば「冗談だ。ちゃんと覚えてる」と笑い、ワシャワシャと私の頭を撫でてきます。