明神弥彦の一件は滞ること無く緋村剣心の活躍によって幕を閉じ、神谷活心流にも門下生は一人ではあるものの在籍し、少しずつ神谷活心流剣術道場は以前の様な活気を取り戻し始めている。
「で。左之助さん、お仕事は?」
「……喧嘩しすぎてクビになった」
モサモサとお米を頬張り、薩摩芋の葉と身、小松菜の和え物に小魚の味噌煮を食べる彼の言葉に「また、次のお仕事があると良いですね」と苦笑を浮かべて、私は左之助さんに返事を返す。
賭場の喧嘩や騒動を仲裁する役目を請け負った筈なのに左之助さんは二人纏めて殴り飛ばしてしまい、それはもう見事に賭場の隠れ家を破壊し、賭場番のおじさんは何故か私のところに助けを求めに来るという珍事が起こってしまったのだ。
私は左之助さんの保護者じゃないんだけどな。
そう呟きそうになる愚痴を飲み干し、少し溜め息を吐いて仕事に集中する。現在、瓦版にて連載している絵物語は前世の私が愛した漫画『うしおととら』だ。
私はこの時代に生きている間に、前世の漫画を出来るだけ描き記しておきたい。二人の冒険や妖との友情、拙くも尊い恋の話を少しでも多く描きたい。
「ご馳走さん、美味かったぜ」
「食器は桶に浸けておいて下さいね」
「おう」
のっそりと魚の骨を咥えて戸を開けて出ていく左之助さんを見送り、木炭を筆代わりにして描いていた『うしおととら』の話も一段落したため、私も外行きの着物に着替えようと帯を解こうとした瞬間、私の部屋の戸が派手に真ん中からへし折れて吹っ飛んだ。
私の部屋に倒れ込んだ大男は、かつて神谷活心流の土地を盗もうとしていた比留間兄弟の弟であり、作中で一番最初に緋村剣心に敗れた剣客が白目を剥き、泡を吹いて気絶している。
「ひっ、ひいぃ!?」
「人様の飯を盗み見しやがって、変態親父が」
そうっと部屋の外を見ると比留間兄弟の兄、薬師の真似事をして神谷さんに近づいていた喜兵衛が地面にへたり込み、その目の前に苛立っている左之助さんが拳を鳴らして佇んでいるのが見えた。
「よし、今日の買い出しはやめましょう」
壊れた戸の代わりに夏に向けて購入していた簾を出入り口に引っ掛け、部屋の中の様子が見えないように出来るだけ丁寧に取り付ける。
「うっ、うぅ…痛てぇ…」
「と、とりあえず、お茶飲みますか?」
「えっ、ああ、こりゃあご丁寧に」
人間の大きさとは思えない背丈の比留間兄弟の弟が起き上がり、ぱちりと目が合ってしまった。ここ最近の私は不幸続きではないだろうかと思いつつ、お茶を淹れた湯呑みを差し出す。
ズズッとお茶を飲んだ彼はホッと一息を吐き、直ぐにまた簾をブチ破って左之助さんのところに向かって駆け出して行ってしまった。
……簾、高かったのにな。