奈落の襲撃と言って良いのかは分かりませんが、よく分からない手紙をドクトル・バタフライへと再送して貰い、私と左之助さん、しとりとひとえは平穏な生活を取り戻しつつあります。
多分、平穏な生活です。
「母様、母様、ひーちゃん変」
「ひとえが?」
しとりの言葉に私は首を傾げながら縁側に座っているひとえに近付き、彼女のおでこや頬っぺた、首筋に手を当ててみるも熱はない。
ひとえの顔を見ても、ぼんやりとしているだけ。何か妖怪の仕業かと考えてみるものの。ここ数日は変わったことは奈落やぬらりひょんがやって来た事以外に悪いことは殆んど何もありません。
左之助さんに相談して恵さんに見て貰う方が良いわよね。うん、その方が安心できます。そう私は納得しながらもひとえを抱き上げ、寝室に戻って敷き布団の上に彼女を寝かせる。
リボンを外して帯を緩める。
私の『特典』が遺伝していたら、この子はとても大変な事になる。それだけは絶対に避けて、しとりとひとえには長生きしてほしいんです。
「ひとえ、苦しくない?」
「…ぁぃ…」
「ん、ひーちゃん頑張って」
……三途の川の瘴気。
サンピタラカムイ様の加護を受けていて尚も身体を蝕んでいるの?でも、それなら私にも何かしら同じような症状が起きるはずなのにっ…!
一旦、一旦落ち着きましょう。
「しとり、桶と手拭いを準備するからひとえの手を握っていて貰えますか?」
「ん!わかった!」
しとりにひとえの事をお願いして桶に水を満たし、綺麗なタオルを選んで寝室に戻り、まだぼんやりとしているひとえのおでこに水気を絞った濡れタオルをかさねる。
「ちべたい」
「……それを言うなら冷たいですね」
「ぁぃ」
壊れかけのショドウフォンでも良いから残しておけば良かったと思いながら、ゆっくりと彼女の小さな身体を抱き起こし、口許に湯呑みに入れて持ってきていたお水を運んで飲ませる。
本当はリンゴや蜜柑を擂り卸したものを食べさせてあげたいけれど。しとりとひとえだけにするのは危ないですから、一緒にいないといけない。
「ひとえ、辛いなら言ってね?」
「ひーちゃん、痛いの言ってね?」
「……ぁい…」
うつらうつらと眠り始めるひとえに不安と安堵を抱きつつ、私はしとりにひとえの事をお願いして、次に起きたときに安心できるように氷室からリンゴを取り出して切り分け、卸し金で擂り卸す。
ドクトル・バタフライに連絡するにしても電報を届けて貰わないといけませんし。こういうときに、本当に私はダメな女です。