「風邪の症状は無いけれど。解熱剤を幾つか用意しておくわ。左之助、あんたはちょっと此方に来なさい。ひとえちゃんの話と薬の話をするから」
「分かった。景、しとり、頼む」
「ん!」
「分かりました。お気を付けて」
いつもより長い診察を受けて疲れてしまったのか。スヤスヤと安定した呼吸で眠るひとえの事を優しく撫でてあげ、無事に生きて欲しい事を願うばかりです。
『末娘の病は妖怪によるものだ』
「っ、時代樹様…」
フワリと大黒柱を通って現れた彼女の言葉に息を飲み、不安で詰め寄りそうになる心を落ち着かせて、ひとえの事を時代樹様に相談する。
『糸色景、先日の奈落の動向を覚えているな。ヤツの持っていた刀、あの刀身は鏡の妖怪の身体を切り取った物だ。お前の末娘は刀の中にその魂の一部を吸われてしまっている』
「それはっ、どうにかならないんですか?」
『私の力では不可能だ。まだ小さな末娘の身体では私の力を受け止めるには器は小さすぎる。逆に長女の肉体は器に適しすぎている。まるで、空のように深い』
「しとり、お空さん?」
『嗚呼、全てを呑み込める大空だ』
どこかで聞いた覚えのあるフレーズを呟く時代樹様は戸をあける瞬間に消えながらも、あの刀を調べるように言い残してくれた。
左之助さんと恵さんは軽く話して別れ、左之助さんはお薬の入った紙袋を差し出し、私は驚きながらも素直に受け取り、ひとえの体調をしっかりと確認する。
「しとりは熱く感じる?」
「んーん、あつくない」
そう言うとしとりはパタパタと自分の手を動かして、扇ぐ真似をする。本当に大丈夫なんですよね?と不安になりながら私は倉に仕舞われた刀を取りに向かう左之助さんを見送る。
「(おそらく、あの刀で私の魂を吸う予定だったんでしょうがモヂカラと懐剣の結界によって力の向きはひとえに代わってしまった)」
それが、今回の原因です。
ひとえは苦しいはずです、お母さんの事を恨んで良いから、絶対に治してあげますから、奈落の力に呑まれてはいけません。
「景、この刀で良いんだよな?」
「……はい。これです」
倉から戻ってきた左之助さんの差し出す刀を取りに受け取り、眼鏡を外して見据える。ボヤける視界の中、うっすらと霊魂のラインは見えます。
「(私の魂を押し込めば、ひとえの魂を取り返す事が出来るかもしれない)」
そう私が真剣に考えていたその時、刀の柄を寝ていた筈のひとえが握り締めている。
「かえして」
一言。たった、一言で霊魂が引き出された。
奈落の妖気も霧散し、刀身は砕ける。