「景、景、景」
「どうしたんですか?」
私の名前を呼ぶ左之助さんに首を傾け、のっそりと動く彼の事を見上げる。もっと横幅を広くしたら熊みたいなんですけど、まだ違いますね。
そう思いながら私の腰を掴んで持ち上げる彼の手をペチペチと叩きつつ、あまり変な事はしないように訴えても聞き入れてもらえませんでした。
むしろ怪しいです。
「左之助さん、体調が優れないんですか?」
「いや、そっちは大丈夫だ」
「そっちは?」
「言葉の綾だ」
なんだか怪しい口振りですね。何か隠し事をしているのなら私にも教えて上げて下さいね。私も言えないことは沢山あるけれど。
転生者の件や『特典』の事は絶対に話せない。
それだけは絶対に絶対に教えない。
不思議に思いながらも左之助さんなら大丈夫だと考えを区切り、静かに原稿用紙に『物語』を描き、しっかりとドクトル・バタフライの許可も得たお話です。
「左之助さん、重たいです」
「一緒に昼寝しようぜ?」
普段の左之助さんからすると少し気だるげな声色に首を傾げ、なにか妖怪の攻撃を受けたのかと個魔の方に聞いても家の中に侵入はしていないそうです。
ということは、外で術を受けていますね。
「……お昼寝しましょうか」
「おう」
私が提案を受け入れると手を広げて、私に倒れ込んでくるように急かす左之助さん。やっぱり普段の左之助さんとは全然違います。
普段の左之助さんは私の事を抱き締めて、そのまま寝転ぼうとしますから、少しだけ気だるげになる能力を受けていると考えるべきですね。
ドンと親分、ボスは眠ったままですし。
警戒する必要性は低め……でも、やっぱり怖いものは怖いからゆっくりと左之助さんの腕の中に収まり、ドクンドクンと聴こえる彼の心臓の音に耳を澄ませる。
こうしてしまえば聴こえるのは心臓の音だけです。怖い声も何も聴こえず、安心して目を瞑ることが出来ますし、危ない事を知らずに済みます。
「左之助さん、擽ったいです」
「ん、悪いな」
私の首元に顔を寄せる左之助さんに、そう言うと今度は胸に顔を埋めて眠り始める。なんでしょうか、この珍しく甘えん坊な左之助さん……すごくかわいいです。
「母者、そんなに撫でたら禿げるわよ」
「禿げても愛しますよ」
「そういうこと、でいいのか?」
そういうことで良いんです。禿げる云々はお爺ちゃんお婆ちゃんになれば誰でもあり得ることですし、危ない事は何もないと良いのが一番です。
けれど、こういうのもたまにはいいですね。
なんだか安心できます。