二度目の仕合開始の合図を左之助さんが行い、しとりと坪内君はジリジリとお互いの間合いを測るように摺り足で進み、一刀一足の間合いに踏み込んだ刹那、坪内君が鋭い右切上を繰り出し、しとりは後ろに退いて躱す。
───けれど。僅かに前髪を掠めた事にしとりは驚きつつ、にっこりと笑ったかと思えば神谷活心流ではなく桜一刀流「桜花七式」の一の太刀「
神谷道場の稽古場で見せた霞の構えに酷似しているけど。「五月雨」は切っ先を下段に落とした防御と攻撃の二種を兼ね備えています。
「景、あの構えは姿のヤツか?」
「はい。姿お兄様が北海道で一度だけ左之助さんに使おうとしていた物です。尤も左之助さんに柔剣で勝つことは不可能と予測し、飛天無限斬に切り替えていましたが、あの技も相当の技量を必要とします」
そう解説する私の隣に立つ左之助さんは坪内君からしとりに見る相手を変える。ただ、もしも坪内君は私のように『クロガネ』を知っていた場合、瞬時にしとりの構えに対策して来るでしょうね。
ゆっくりと橋の上の緋村剣心を見上げる。
「んんんんーーーっ!!」
はむっと口を噤んで迫り来る坪内君の剣戟を掻い潜るようにしとりは突きを放ち、彼の胴着を掠める。緋村剣心や姿お兄様、左之助さんのように圧倒的な強さを誇る訳ではないですが、しとりの学習能力は凄まじい。
「シイィィっ!」
坪内君はくるりと真横に転倒し、逆さまの格好で切り付ける。確かアレは「眠り猛虎」という技だったと記憶しています。
側転や前転、後転、身体を翻しながら切り付ける変則的な剣戟であり、避けることは難しいですが、しとりのように竹刀を使い、身体を守る構えを取っておけば初撃を受け止める可能性は比較的に高めです。
「しとり、大丈夫ですか?」
「ん!けんちゃんのほうが強い!」
「けんちゃん?……あいつか」
チラリと橋の上に坪内君が視線を向ける。
「自分も強いと思いますよ、しとりさん」
「ん!強いけど、しとりより遅い」
そう宣言したしとりは霞の構えを解き、正眼に構え直し、ゆっくりと上段に竹刀を構える。ほんの一瞬だけ、しとりに姿お兄様を幻視してしまう。
────刹那、しとりの竹刀は振るわれた。
緩やかに一切の隙もなく綺麗に弧を描き、パシンと坪内君のおでこに軽く竹刀を当てて、にっこりと笑顔を向けて笑った。
「ん!しとりの勝ち!」
「……また再戦してほしい」
「しとりと戦いたかったらおれが相手だ!」
「剣路君?」
「おろぉ……盗み見るつもりはなかったのでござるが、剣路がしとり殿と坪内殿を見つけてしまい」
いえ、そこはいいんですけど。
子供の三角……いえ、互角でしょうか?