某剣客浪漫世界で私は物書きをする。   作:SUN'S

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ふたりの乙女は何処(いずこ)へ 序

薄暗い地下室の壁面や床、天井に飛び散って凝血した外印のアトリエに囚われてから、何日が経過しただろうか。生臭さと悪臭、腐敗臭の蔓延した此処から、いつになったら出られるのだろうか。

 

「糸色先生、随分と遅くなりましたが私の工房を退出して頂いても大丈夫ですよ。今は縁や他の同志も出払っていますからね」

 

「……もう帰って、良いってことですか?」

 

地下室と外を繋ぐ鉄扉を開けて入ってきた外印の言葉に僅かな希望を抱いて、そう問いかけると「私の仕事は大詰めを迎えましたからね。お好きなようにして構わないです」と言って私を地下室から出してくれた。

 

左之助さんのところに帰れる。

 

その希望を力に変えて、疲弊しきった身体で階段を上がり、洋式の廊下に出る。雪代縁の借りていた横浜の別荘なのは、少し前に気付いたけれど。

 

彼らから逃げ出す機会は一度も無かった。

 

「……嗚呼、一つだけ伝えておきましょうか」

 

ふと何かを思い出したかのように外印がポンと手を叩き、頭巾越しでも分かるほど楽しそうに私に向かって笑顔を向け、ゆっくりと言った。

 

「貴女の愛した相楽左之助には、もう代わりになる糸色景を渡しておきました。全く、愛しているだとか宣っていた癖に真偽を見抜けないのだから、大して貴女の事を愛していなかったんでしょうね」

 

「…はっ…え?…左之助さんが?…」

 

ウソだ、ウソだウソだウソだウソだ……

 

ウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソッ!!!!

 

そんなの有り得ない!!!!

 

私を大切にしてくれる左之助さんが、私と偽者を間違えるわけがない。だって、私は此処にいるのに、偽者に左之助さんが騙されるわけがない。

 

「そう落ち込む必要はありませんよ。糸色先生には良き理解者たる私がいるじゃないですか」

 

「…ッ…いいえ…私を一番理解してくれるのは左之助さんだけです…!」

 

「そうですか」

 

私の決死の言葉も平然と受け流した外印は私から視線を外し、またどこかに行ってしまった。あの人は何をしようとしているのか。

 

「……ぅっ…うぅ…」

 

助けが来ないかもしれないという不安に泣きそうになりながらも袖で目元を擦り、せめて左之助さんの手助けになる事を考える。

 

しかし、全くと言っていいほど手懸かりがない。

 

…そもそも私の偽者は生きている人?

 

それとも人形を動かしているだけ。外印でもさすがに疑似血液を作ることは難しいだろうし。……そうなると外印の話していた蝶野爆爵に行き着く。

 

でも、まだホムンクルスを製造する錬金の技術は未だに完成しきっていないと私は仮定していたけど。既に完成している、もしくは完成目前なら?

 

それなら私の偽者を作るのは造作もない筈だ。

 

今の私に出来るのは、考える事だけ。

 

「…まさか、核鉄を?…」

 

それこそ有り得ないけれど。

 

私という世界に混ざり込んだ転生者がいて、蛮竜という私の他にも過去に転生していた人の存在も示唆できる代物が残っている。だからこそ核鉄という超常のアイテムの存在もあり得る。

 

 

 

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