「御免下さい。坪内刈羽です!」
突如、快晴の空を断つように男の子の大声にビックリしながらも正門の方に向かうと、本当に坪内刈羽が立っていて私は困惑してしまった。
「えと、お久しぶりですね。坪内君?」
「お久しぶりです。相楽景さん」
ペコリと頭を下げてお辞儀をする彼の近くに坪内八郎は居らず、どうやら一人で此処まで来たようですけど。まだ八歳だと聞いていたのですが……。
そう思っていると朝稽古を終えて、ゆっけりと首元の汗を手拭いで拭いているしとりが現れた瞬間、坪内君は後ろ向きになった。
フフ、紳士なんですね。
「かっちゃん、どーしたの?」
「今日は自分の話をするために来たんだ。しとりさんに不埒な考えを抱いている訳じゃないよ!自分は相楽景さんに話があるだけだから」
「母様、かっちゃん誰と話してるの?」
「さあ?」
私には相楽の名札をつけた柱に話しているようにしか見えませんけど。多分、しとりに気恥ずかしさを感じているんだと思いますよ。
「どうぞ、ご用件は中で聞きますよ」
「ありがとうございます」
此方に振り返った坪内君はしとりを見ると顔を赤く染めて、そそくさと玄関ではなく庭の方に行ってしまい、思わず、私は不思議そうに小首を傾げるしとりに苦笑いを浮かべてしまう。
そういうところも可愛いですね。
しとりに庭の方から居間に通すように頼み、私は玄関から廊下を通って台所でお茶とお茶菓子を用意して、いそいそと居間に戻ると物々しく坪内君を睨む左之助さんが何故か居間に居ました。
今日は喧嘩の仲裁人になるはずじゃ?
「おう。オレの居ない間に娘に近づくつもりか?」
「い、いえ、自分は相楽景さんに」
「オレの女房に手ェ出す気か!?マセガキにもほどがあるぞ、てめぇ!?」
「?母様、ませがきってなに?」
「さあ、お母さんにも分かりませんねえ」
「ひーちゃん、知ってる?」
ひとえにも話しかけるしとりですが、ひとえはフルフルと頭を横に振り、知らないことを伝える。でも、やっぱりしとりは気になるようです。
「父様、ませがきってなに?」
「……アイツだ」
「かっちゃん?」
「はい!かっちゃんです!」
あっさりと認めましたね。
そう私は感心しながら、いっこうに警戒心を緩めない左之助さんに苦笑を浮かべ、「まだ二人とも子供ですから」と言っても相手が男の子ゆえに警戒心は緩まない。
そこまでして娘を守りますか。
しかし、これでは坪内君のお話を聞くタイミングがありませんね。どうしたらいいんでしょうか?と私が悩んでいると金色の蝶が左之助さんの鼻に止まった瞬間、左之助さんは眠ってしまいました。
ドクトル・バタフライの仕業ですね。