酒屋の店主に椅子を借りて、左之助さんの隣に腰掛ける時雨滝魅は帯刀し、いつでも刀を抜ける位置に手を置く。対して左之助さんには私という運動神経皆無の逃げることも出来ない足手纏いがいる。
また、私が邪魔をしています。
「……で、話ってのは何だ」
「お前に火器の密輸を頼みたい」
「ふざけてんのか?」
「お前なら分かるはずだ。この腐った世の中に必要なのは血塗られた仮初めの明治政府ではない。人のため、今一度刀を手にしなければならんのだ」
そう言って左之助さんを見据える時雨滝魅の眼は妖しく光り、人格者として描かれていた彼とは似ても似つかない狂気を孕んでいる。
恐ろしく暗い感情が渦巻いている。過去の亡霊が、未だに幕末の動乱を抜け出すことの出来なかった彼の眼はあまりにも冷たく怖い。
いえ、それよりもおかしい。
私の知っている時雨滝魅は元会津藩士として活動し、赤報隊と関わりがある可能性も捨てきれないけれど。本来、彼らは明治十一年に政府を攻撃するはずでした。
それが、どうして明治十九年まで待機を。
「悪いが、断る。オレは『悪一文字』を背負ったまま
「そうか。お前はもう違うのだな」
時雨滝魅は、そう言うと何処か虚ろな眼で私を見据えると立ち上がって歩いて行ってしまった。彼はきっとまだ幕末の動乱の最中に生きている。
「お前は何も心配する必要はねえ。オレも剣心も弥彦だって此処に居るんだ。オヤジ、店先借りて悪かったな。景、乗っけてやるから乗りな」
「……はい、ありがとうございます」
ぎゅうっと彼の背中に抱きついて、おんぶして貰いながら新津覚之進の作品を見るために集まっている薫さん達のところに左之助さんは走り出す。
ゆっくりと私は左之助さんの背中に顔を埋め、私を見る時雨滝魅の視線に不安を抱く。もしも、あのときに出てこなかった人達だとしたら私は何も出来ません。
「(ドクトルは、こうなることを見越して私を……いえ、左之助さんや緋村さん達を横浜に向かわせたの?もしもそうなのだとしたら……)」
この事件には転生者も関わっているのでしょうか。坪内君もそちらに関わっているのか。あるいは、彼もこの騒動に巻き込まれていたから寄越したのでしょうか。
そう考えているとしとりとひとえの声が聴こえ、そちらに顔を向けると緋村剣心達と一緒に陶器を眺めつつ、みんなで小首を傾げている光景が見えました。