某剣客浪漫世界で私は物書きをする。   作:SUN'S

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押し寄せる遺恨 序

先日の邂逅後、緋村剣心達は少し気を落としているようにも感じます。いえ、感じるのではなく事実なのでしょうね。そのどれもが幕末の遺恨です。

 

元々介入することも止めることも出来ないですし、既に逆刃刀を明神君に譲り、前線を退いてしまった緋村剣心を頼るのは難しいけれど。

 

時雨滝魅に勝てるのは幕末の剣客だけ。

 

左之助さんや明神君には入り込める余裕と隙は存在せず、況してやドクトル・バタフライの介入できる余地は無い筈なのに、どうして?

 

「グッドMorning。やはり悩んでいるようだね」

 

「悩みますよ、当然。……それより私の記憶に無い瑪瑙幸隆という人物はどの『物語』に転生したんですか?」

 

「彼は『侍』に生まれ変わった男だ。ただ、本人は原作を知らなかったらしい。だが、剣術の腕前は鹿沼三羽烏と称され、剛剣の使い手だそうだ」

 

「らしい」とか「そうだ」など。

 

まるで、憶測や推測のように思える言葉を告げるドクトル・バタフライに違和感を抱き、私達に横浜へ向かうように提案してきた本当の理由を私は静かに訊ねる。

 

「────分かった、正直に言おう。瑪瑙幸隆という転生者は既に死んでいる筈の男だ。明治十七年、突如彼は時雨滝魅と加治木貞史郎の前に現れた」

 

「……十七年、地獄の門ですね」

 

ゆっくりと彼は頷いてくれた。

 

二度の死を経験した魂は何処へ向かうのか。

 

あるいは、何処かに行くことは出来ず、彷徨った末に地獄の門を通って、再びこの現世に黄泉還ったと考えるべきなのでしょうか。

 

「糸色君、時雨滝魅は黄泉に魅入っている。このまま行けば彼は生きたままあの世に引きずり込まれる。そうなる前に取り返さなければいけない」

 

「どうして、私なんですかっ……もっと、他に強い人はいるし、優しい人はいるでしょう?」

 

「必要なのはススハムと糸色君、君達の持つ巫女の力だ。私もオカルト方面は未知の領域だ。数年前の事件の時、私は後方支援だった。君を前線に立たせてしまった後悔は今も消えない。だが、人を救うのは人でなければいけない」

 

「…………分かりました。やるだけ、やります」

 

そう私は伝えるしかなかった。

 

恐ろしく怖い。

 

あの視線がまた脳裏を過った。

 

人を見る眼じゃない、妖しく光る時雨滝魅の眼が身体の芯を貫き、不安と恐怖の入り雑じった感情が私の中で暴れまわっている。

 

いや、いやです、怖いのは絶対にイヤです。

 

そう不安を抱いたまま私はドクトル・バタフライが飛び去る夜空を見上げ、身体を震わせる。

 

 

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