斎藤一と坪内君は見つめ合う。
暫しの沈黙の後、斎藤一は彼を連れて縁側の端に移動し、私達に聞こえない程度の声で話し始めます。緋村剣心は土方歳三の名前を聴き、困惑と高揚感が僅かに混ざった目を坪内君に向けている。
「糸色殿、今の話しは本当でござるか」
「私に聴かれても…」
「斎藤はお主を一瞥したでござるよ」
「さ、左之助さん…!」
「おい、また知らねえ男か?」
「ひぃんっ」
こめかみに青筋を立てて私を見下ろす左之助さんの怖い顔に半泣きになりながら逃げようとするも、しとりとひとえに「悪いことしたらあやまろ?」と言われ、完全に私は逃げ道を失ってしまいます。
俵抱きで抱えられる私を未だに怪しむ緋村剣心でもいいから助けて下さいと顔を向けると、ふいっと顔を逸らされ、知らんぷりされた。
ショックを受ける私は寝室ではなく書斎に入るなり、畳の上に下ろされ、不安になりながらも左之助さんを見上げると彼も座って目線を合わせてくれる。
「景、ひじかたってのは誰だ」
「え、えと、新撰組副局長の土方歳三です」
「要は斎藤の元上司か……で、なんでソイツとお前が知り合いになってんだ?」
「その、北海道で投獄された不破さんを迎えに行くときに偶然会ってしまったんです」
そう伝えると「あの野郎、オレに黙って景にちょっかい掛けてた理由はそれか!」と声を荒げ、ゆっくりと私を見下ろしながら見つめてきます。
「年々お前を狙う男が増えてやがる。マジで手足の腱を切って動けねえようにするか?」
「あ、あはは、冗談ですよね?」
迫真の演技をする左之助さんにそう言うと「おう。こんなもん冗談に決まってるだろ」と言い返され、ほうっと安堵の吐息をこぼす。
良かったです、そんなことされたらしとりとひとえを抱き締めることが出来なくなりますから。けど、そういった冗談は本当に怖いから止めて下さいね?
「時雨某もお前を見てやがったな」
「え?いえ、あれは左之助さんですよ?」
「ムッ。そうだったか?」
「はい」
私の腰を掴んでお膝の上に乗せ、動けないように抱き締めたまま話し始める左之助さん。実際、時雨滝魅は私ではなく左之助さんを狙っている。
彼の名前は良くも悪くも表裏の社会に轟いていますし。特に上海側は雪代縁を倒した内の一人として警戒し、交易の際も凄く警戒している様子です。
だから、私を狙う理由が時雨滝魅にはない。
「んッ…あの、左之助さん?」
うなじを噛まれた痛みで思考が遮られる。
「うるせぇ、オレと話してんだろう」
それは、そうですけど。
なんでいきなり噛みつくんですか?