その戦いは異様だった。
ドクトル・バタフライの
「老いたな、蝶野」
「ぐっ…!?」
その言葉と共に横に振るわれた短刀がドクトル・バタフライの喉元を切り裂き、ゴポッ…と夥しい量の血が噴き出し、彼の白い背広を鮮血に染める。
しかし、その鮮血も彼の姿も塵に変わって周囲を漂うチャフは空を飛び、首筋を押さえるドクトル・バタフライの背中に浮かぶ蝶羽に集う。
「視覚を惑わす技術か」
ゆっくりと瞼に触る瑪瑙幸隆。
そんな彼の目の前に舞い降りたドクトル・バタフライは、首を切り落とされる前に回避したものの、僅かに首元を裂かれている。
あと数寸深ければ刺さっていました。
「糸色君、目を瞑っていたまえ。此処から先はアダルティーな大人の戦いだ」
「私は成人していますよ?」
私は少しだけ反論しながらも目を閉じると同時に「目の前」に何故かサーモグラフィを使用した様な光景が広がり、二人の体温を見ることになる。
ただ、二人とも人間の範疇を越えた存在であり、周囲の気温より低く青いヒト型の攻防は激しく……目を開けた方が見やすいですね。
そう思って目を開けたその時、瑪瑙幸隆は両手を包んでいた手袋の中指を噛み、一気に手を引き抜き、両手に開いた刀傷はポタリと血を垂らす。
「地獄に堕ちた俺はどうしたと思う?」
「なに?」
「────答えは、鬼殺しだ」
そう言って手のひらを滴る血を払った瑪瑙幸隆の足元、彼の振り撒いた血溜まりから二振りの刀の柄が生え、ドクンッ…!と異質な妖気を放つ。
「幸隆君、君は何に成ったのだ」
「知らん。興味も無い。だが、そこの糸色景を使えば俺は地獄を這い出る事は出来るんだろう?地獄の門を開いたって聞いたぜ、志々雄のヤツによォ…!」
ニヤリと狂気の笑みを浮かべた彼は刀を構えようとした刹那、激しく鳴り響く警笛の音に舌打ちをして走り去る。引き際を理解しているけれど。
ひとつだけ勘違いしていましたね。
私は閉じた側の人間です。
あと開け方は知りません。
「相楽先生、お怪我は!?」
「あ、私は大丈夫です」
そう伝えながら消えた二人の事を考えて、少しだけ二人の関係に興味を持ってしまう。いえ、それはあとで聞けることですから良いのですが。
「全く何の悪戯でしょうね」
「えと、そうですね。あはは……」
悪戯ではないのでしょうけど。
あの瑪瑙幸隆に勝ち目があるとしたら、やっぱり緋村剣心以外にあり得ない。しかし、彼はもう戦線を退いてしまっています。
一体、どうすれば……。