私の提示した内のひとつ、鹿鳴館に襲撃を仕掛けようと集まっていた元会津藩士、元士族や元華族など現在の明治政府に不満を持つ人達を撃退したと聞きました。
ただ、やはり時雨滝魅と瑪瑙幸隆の姿は無く、今回の首謀者は加治木貞史郎ということになっている。
そして、明治十一年以降も悪事を行わず、危険を避けていた
何故、こう物思いに耽るのか。
それは田母野鋭敏が目の前にいるからです。
「御初に御目に掛かる。私の名前は田母野鋭敏、神通力の使い手と名高き糸色女史に御会いできて光景だ。どうぞ宜しく頼む」
「はい。此方こそ宜しくお願いします」
「フン。なんで私は無視ですか」
そう私の真横で不満げにするのは雅桐輪具こと武田観柳です。再建のために融資を募るためにお呼ばれしたそうですけど。そういう態度だと危ないですよ?
ゆっくりと歩く私の前を歩く二人の後を歩きつつ、警官や軍人に指示を送る田母野鋭敏は少し外観の焼けた鹿鳴館を見上げる。悔しさを滲ませる目は「俺の苦悩する姿を見ろ」と命令しているように感じてしまう。
いえ、実際にそうなのでしょうね。
私の事を鹿鳴館に呼びつけた理由もおそらくは私を取り込み、自分の派閥をより大きくするため、左之助さんの裏表に通じる名前と交易も利用できる「弱み」を真っ先に取りに来ています。
その頭の回転を人のために使えば安全に出世できると思うのですが、彼はその事に全く気付いていない。むしろ悪の道を突き進むことに魅了されている。
「私は思うのです。弱きものを虐げ、力あるものが幸せになるだけでは無意味だと!」
そう高らかに宣言する田母野鋭敏の手が肩に触れる前に下がり、じろじろと私の事を見つめる目に不快感と不安と恐れを抱く。
この人は、やっぱり悪党のままです。
「田母野憲兵曹長、不審物を発見しました!」
「不審物だと?失礼、直ぐに戻ります」
走り去る田母野鋭敏。
「糸色さん、気付いていると思いますがあの男は『黒』ですよ。清廉潔白且つ品行方正且つ青天白日のこの雅桐輪具が保証しましょう」
にんまりと笑う武田観柳は葉巻を取り出し、特注品のカッターで葉巻の先を切り、マッチを擦って火を点けると葉巻の煙を吐く。
「……臭いです」
「お子ちゃまですね」
口と鼻を袖で隠しながら離れる。
そういうところは直してほしいです。