「諸手左上段の構えでござるな」
「剣心、来てたのか!」
「嗚呼、今朝方にあの青年が弥彦を訪ねてきたでござるよ。おそらくあの青年もまた件の話に関わる一人なのでござろう?」
そう私に問い掛けるよりご本人に聞くべきでは?と時雨滝魅と瑪瑙幸隆の二人に視線を向けるも、二人は静かに明神君と武蔵野泰春の戦いを見ています。
「鉄拵えの鞘を用いた二刀流、やはり斎鬼鹿流でざったか。しかし、どうしても弥彦を真っ先に狙う理由が分からんでござる」
緋村剣心は倭杖の柄頭を顎先に添えて悩むけれど。左之助さんは何となく予感し、私は理解できています。
今の明治政府に不満を持ち、彰義隊として戦っていた父親の無念を晴らしたい武蔵野泰春、士族の誇りを捨てずに剣の道に生きる明神君では刀の重さが異なる……と、聞いたことがあります。
刀の重さと意思の強さは直結し、意を高めて斬り合えば精神力の強い方が勝ると聞きますし、そういう類いの感情論は私には分かりません。
「神谷活心流、
「撃剣」で言えば巻き抜け面ですね。
続けざまに明神君は間合いを拡げるために伸びていた鉄拵えの鞘を握る手首を打ち抜き、武蔵野泰春の居抜き胴を叩き込み、苦悶の表情を浮かべ、片膝を地面につく武蔵野泰春を見下ろす。
とても立派な姿です。
「ありゃあ、すげえな。今なら弥彦も剣心に勝てるんじゃねえのか?」
「なんの。まだまだ負けぬさ」
「ん!しとりのほうが強い!」
しとりまで会話に参戦する最中、私は川の中に薙ぎ落とされた武蔵野泰春が水面に刀を浸け、緩やかに剣を振るう姿に異変を感じる。
水鴎流の動きに見える。
いえ、斎鬼鹿沼流に水辺に適した技があると考える方が妥当ですね。そう思っていると水面を這うように放たれた剣閃は川の水を巻き上げ、一時的に明神君の視界を遮っておかげで鉄拵えの鞘を命中させた。
「水を盾にしやがったのか?」
「飛天御剣流とは違う。水辺で戦うことを前提とした剣技でござる。しかし、鞘を攻撃に使ったということは鞘では使えぬ技か…」
そう呟く声に私は違和感を抱く。
「景、なにか知らねえか」
「私も初めて見る技ですし…」
私が思ったことを口にすると瑪瑙幸隆が此方に視線を向け、なにかを訴えるように笑った。ぐるぐると頭の中を沢山の流派や剣術が行き交います。
ふと、ひとつの流派に辿り着いてしまった。
水を武器のごとく利用する剣術────。
滅びの剣とさえ謳われたもの。
「────時雨、蒼燕流?」
その呟きが吹き抜ける。