「糸色さん、無事だったのね!」
「神谷さんもお怪我はないですか?」
「えぇ、私は大丈夫だけど。貴女は?」
自分も不安で怖い筈なのに、私を心配してくれる神谷さんの優しさに嬉しさと申し訳無さを抱きながら、彼女に手を握ってもらった事で数日ぶりに安心感を得ることができ、緊張の糸が少しだけ緩む。
外印は私が『うしおととら』を書く間、こっそりと自分のために書いていた、まだ外に出していない『からくりサーカス』のフェイスレスの生き方に感銘を受けていた。彼に絵巻を見るタイミングは無かった。
───けれど。一つだけ、このタイミングだと確実に言えるのは「葵屋」襲撃後、不自然な程に綺麗に残っていた私のカバンだ。
あの時、あの瞬間、外印は土煙に紛れながら『からくりサーカス』を読んだんだと思う。でも、あの十分にも満たない時間で暗記できるものなの?
「剣心と左之助は大丈夫かなぁ…」
「きっと……いいえ、あの人達は絶対に大丈夫です。緋村さんと左之助さん、私達の大好きな人は途中で何かを諦めたり、自分の想いを曲げない人達でしょう?」
「……フフ、そうね!」
神谷さんの不安を和らげるために、そして私自身を鼓舞するために、そう言い合って笑う。しかし、今は兎に角、脱出する方法に加えて、外印の狂気を止める方法を考えなくちゃいけない。
「あの、聞きそびれていたんですが。どうして、神谷さんは
「……着替えがないのよ。いや、あるにはあるけど。どうにも趣味が片寄っているというか、誰かを想って買っているように感じるのよ」
ああ、雪代巴を想って買ったのかと納得する反面、ここまでしなければいけないほどに追い詰められ、不安定な彼に少しだけ哀しみを抱いてしまう。
それでも雪代縁と外印を止めるには緋村剣心と左之助さんだけでは足りない。斎藤一、四乃森蒼紫、明神君、御庭番衆の人達、本条さん達も必ず必要になる。
流石に『エンバーミング』は混じっていないと信じたいけれど。外印の超常じみた改造・製作の技術は明治時代の技法とは隔絶し、現代のロボット工学のような高位の精密さを誇っている。
「糸色さん、何かあったの?」
「……いえ。少し考え事をしていただけですよ」
「そう?」
外印の交友には蝶野爆爵もいる。
なら絶対に彼はヴィクター・パワードが倒したであろう錬金の戦士が保持していた核鉄を複数、多く見積もっても三つか四つは持っているはずだ。
外印の技術は蝶野爆爵にも必要不可欠だろうし。