突如、東京府内にて「辻斬り」を行う者が続出しており、その辻斬り犯の手には鱗めいた刃紋の特徴的な反りの浅い太刀を握っているそうです。
おそらく現存する数打ちの奪鬼なのでしょうが、問題は性能の面です。戦国時代の主流は「打刀」であり、今回の事件では切先諸刃造りの「太刀」だった。
幾つか理由も思い浮かぶけれど。
一番、気になるのは製作者です。
刀秋の作品は失敗作は在れど全て全身全霊の気迫を込めて鎚を打った渾身の一振り。対して、此方は出来合いの粗悪な刀に竜人の無敵とさえ思える鱗を継ぎ接ぎのように当てたものばかり────。
ハッキリと言えば、ただの粗悪品の破棄ですね。
「(もっとも、その粗悪品の中に紛れ込んでいたわけですし。存外、単なる猿真似や模造品という訳ではなく本物に近づいています)」
試作品を試している。その可能性もある。
「糸色、この刀について聴かせろ」
「……斎藤さんって私の事を万能物知りだと思っている節がありますけど。私、何でもは知らないですよ。知ってることだけですから」
「じゃあ、聴くがコイツで斬られた人間が死なんのは何故だ?俺の部下も何人か斬り付けられたが死んでいない、薄皮を斬っただけだ」
そう言い、私に刀を差し出す斎藤一。
女の人が刀に触れるのを気にしないのでしょうかと思いつつ、和紙を咥えて袖を襷を縛り、ゆっくりと鞘と柄を握り、刀を引き抜いてみる。
────妖刀「奪鬼」。
いえ、刀身の反りは浅く形式上は「直刀」ですね。太刀と打刀の中間、刃渡りは大体100cm。柄はへ型造り(実写版の「るろうに剣心」の抜刀斎の刀)に酷似しています。
珍しい造りではありますね。
「先の刀工、則宗の作品に近しいですね」
「菊一文字か」
「いいえ、どちらかと言えば備前国則宗の贋作の方です。造りは則宗ですが、この刀を打ったのも最近。反りを浅くして直刀にしているのも『妖刀』という名目上、かなり見栄えを良くするためですね」
「要するにソイツは生きているわけだな」
「はい、生きていますね」
私の言葉に眉間の皺を深める斎藤一に鞘に納めた刀を返し、帯に差している懐剣を彼に差し出す。
「なんだ」
「護身用の守り刀です。妖気や瘴気を跳ね退ける結界を張る最上級の良作ですので、妖刀を追うのなら持っていって下さい」
ただ、そうなると私は無防備になりますけど。
私には左之助さんが傍に居てくれますから、安心できるんです。最近、ちょっとだけ変な事を考えているみたいですけど。
「ちゃんと返して下さいね」
「阿呆が。借りたものを誰が盗むか」
フフ、そうでしたね。